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漁業業界のM&A動向

業界別M&A

2026.02.24更新日:2026.02.24

漁業業界は、古くから日本の食文化や地域経済を支えてきた重要な産業の1つです。しかし近年は、就業者の減少や高齢化、水産資源を取り巻く環境の変化などにより、事業継続や成長に課題を抱える事業者も増えています。

こうした状況の中で注目されているのが、漁業業界におけるM&Aです。後継者問題の解決や経営基盤の強化を目的に、事業承継や成長戦略としてM&Aを選択するケースは広がりつつあります。

そこで今回は、漁業業界の基礎知識や市場規模、抱えている課題を整理したうえで、M&Aの最新動向やメリット、実際の事例を分かりやすく紹介します。漁業業界のM&Aを検討している方は、ぜひ参考にしてください。

目次
 
 

漁業業界とは?

漁業業界とは、魚介類などの水産資源を採捕・養殖し、食料として供給する産業全体を指します。水産物の安定供給を通じて、日本の食文化や地域経済を支えてきた基幹産業の1つです。漁獲した水産物は、卸売・加工・流通など多様な関連産業とも結びついており、裾野の広い産業構造を形成しています。

一方で、近年は漁業就業者の減少や高齢化、水産資源の変動、燃料費や設備投資の負担増加など、事業継続に関わる課題も顕在化しています。こうした背景から、経営の効率化や事業承継の手段としてM&Aが注目されるようになっています。

漁業業界の3つの分類

漁業業界と一口に言っても、操業海域や漁業形態によって特徴は大きく異なります。一般的には、「沿岸漁業」「沖合漁業」「遠洋漁業」の3つに大別されます。

●沿岸漁業

陸地に近い沿岸部や近海で行われる漁業で、小型船を用いた操業が中心です。定置網や地引き網、釣り、採貝・採藻など漁法の種類が多く、地域の海域特性に応じて多様な魚介類が水揚げされます。個人経営や漁業協同組合による運営が多く、地域に根差した産業としての側面が強い点が特徴です。

●沖合漁業

沿岸から一定距離離れた海域で行われる漁業で、中型船を用いた数日単位での操業が中心です。比較的広い漁場を活用できるため、安定した漁獲量が期待できる点が特徴です。巻き網漁を中心に、アジやサバ、イワシ、イカなどを対象とした操業が行われ、沿岸漁業と比べて事業規模が大きくなる傾向にあります。

●遠洋漁業

海外の海域まで航行し、長期間にわたって操業する大規模な漁業形態です。大型船や高度な航海・冷凍設備が必要となり、相応の設備投資や組織的な人員体制が求められます。延縄漁や一本釣りなどの漁法が用いられ、マグロやカツオといった高付加価値の魚種を対象とする点が特徴です。

漁業業界の市場規模

農林水産省が公表している「漁業産出額」と「漁業・養殖業生産量」の最新推移データを見ると、日本の漁業業界の市場規模がどのように変化してきたのか、また業界が抱える構造的な特徴が浮き彫りになります。

年度漁業産出額
2019年 146.8兆円
2020年 131.8兆円
2021年 137.3兆円
2022年 157.4兆円
2023年 165.7兆円

(出典:農林水産省「漁業産出額」/
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/gyogyou_seigaku/index.html

農林水産省が公表した漁業産出額の推移を見ると、2019年から2020年にかけて大きく減少していることが分かります。これには、海洋環境の変化による漁獲量の減少に加え、新型コロナウイルスの流行によって外食産業や観光需要が落ち込み、水産物全体の需要減や価格低下が起きたことが大きな要因と考えられます。

しかし、2021年以降は状況が徐々に変化しています。輸出需要の回復や円安の影響、輸入水産物価格の高騰などを背景に国産水産物の価格が上昇し、2023年の漁業産出額は過去数年の中でも高い水準まで回復しました。

ただし、漁業・養殖業の生産量に目を向けると、2019年以降は一貫して減少傾向にあります。

年度漁業・養殖業生産量
2020年 42.4億トン
2021年 41.6億トン
2022年 39.2億トン
2023年 38.3億トン
2024年 36.4億トン(概数)

(出典:農林水産省「海面漁業生産統計調査」/
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/gyogyou_seisan/gyogyou_yousyoku/r6/index.html

金額ベースでは市場規模が回復しているものの、実際の生産量は縮小しており、漁業の生産基盤そのものが弱体化している点は見逃せません。こうした動きは、食用魚介類の自給率低下とも関係しており、日本の漁業が抱える根本的な課題を示しています。

漁業産出額と漁業・養殖業生産量の各種データから、日本の漁業業界は「価格上昇によって金額ベースでは回復している一方で、生産基盤は縮小している」という二面性を抱えていることが分かります。

そのため、今後は事業承継や経営基盤の強化、効率化を目的としたM&Aの重要性がさらに高まっていくでしょう。

漁業業界が抱える4つの課題

近年、日本の漁業業界では漁業産出額が回復基調にあり、市場規模が拡大しているように見える状況が続いています。

しかし、漁業業界の内情を詳しく見ると、現場レベルでは深刻な課題が複合的に進行しており、必ずしも持続的な成長環境にあるとは言えません。

ここからは、漁業業界が抱える代表的な4つの課題について整理します。

漁業就業者数の減少と高齢化

農林水産省の「令和6年漁業構造動態調査結果」によると、漁業就業者数は2018年から2024年にかけて約3.6人が減少するなど、長期的な減少傾向が続いています。漁業就業者数減少の背景には、後継者不足に加え、若年層の新規参入が十分に進んでいないことが挙げられます。

年度漁業就業者数
2018年 151,700人
2023年 121,390人
2024年 114,820人


また、年齢階層別のデータを見ると、65歳以上の就業者が大きな割合を占めており、業界全体の高齢化が顕著です。一方で、15~39歳の若年層は2023年から2024年にかけて減少しており、次世代の担い手確保が進んでいないことが分かります。

年齢階層2023年2024年
15~39歳 21,670人 20,980人
40~49歳 17,350人 16,850人
50~59歳 21,650人 20,390人
60~64歳 13,190人 11,760人
65歳~ 47,530人 44,840人

(出典:農林水産省「令和6年漁業構造動態調査結果(令和6年11月1日現在)」/
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/gyogyou_kouzou/r6/index.html

若年層が漁業に参入しづらい理由としては、早朝・長時間労働や天候に左右される厳しい労働環境に加え、漁獲量や魚価の変動による収入の不安定さが挙げられます。また、漁業権の継承問題や、漁船・設備への多額の初期投資が必要となる点も、新規参入の大きな障壁となっています。

水産資源の減少・海洋環境の変化による漁獲量の減少

日本の漁業生産量は長期的に減少傾向にあります。主な理由としては、水産資源の減少や海洋環境の変化が挙げられます。海水温の上昇や海流の変化によって魚の生息域が変わり、従来の漁場では十分な漁獲量を確保できなくなるケースが増えています。

また、過去の過剰漁獲の影響により、資源量そのものが回復していない魚種も少なくありません。こうした海洋環境の変化も、漁業経営の不安定化を招く1つの要因となっています。

漁船・設備の老朽化

漁業は小規模経営が多い産業であるため、漁船や漁具、加工設備の更新に十分な投資ができない事業者も多く存在します。老朽化した設備を使い続けた結果として操業効率が低下し、漁獲能力の低下を招いているケースも決して珍しくありません。

漁船・設備の老朽化は安全面のリスクを高めるだけでなく、漁獲量の減少を招く要因の1つとなっています。

収益性の低下

近年の漁業経営では、燃油価格の高騰や人件費の上昇などにより、操業コストが継続的に増加しています。特に燃油費は経営に占める割合が大きく、収益を圧迫する大きな要因です。

水産物の販売価格については一定の価格転嫁が進められているものの、原材料費や物流費の上昇分を十分に吸収できているとは言い難く、多くの事業者が収益性の低下に直面しています。

結果的に操業日数を減らしたり、設備投資を控えたりする動きが広がるだけでなく、状況によっては休廃業を選択せざるを得ないケースも少なくありません。

漁業業界のM&A動向

漁業業界におけるM&Aは、単なる事業規模の拡大を目的としたものにとどまらず、さまざまな経営課題や成長戦略を背景に、多様な形で行われている点が特徴です。

後継者不足や就業者の高齢化を背景とした事業承継型のM&Aに加え、販路の拡大や調達ルートの安定化を目的として、関連業種が漁業事業を譲り受けるケースも増えています。

また、国内市場の縮小や漁獲量の減少を受け、海外市場への展開を視野に入れたクロスボーダーM&Aも一部で見られます。

さらに近年では、漁業単体での成長が難しくなる中、食品製造業や外食チェーンなど、原材料の安定確保を重視する異業種企業が買い手となり、経営基盤の強化やサプライチェーンの一体化を図る動きも活発化しています。

このように、漁業業界のM&Aは「事業の引き継ぎ」に加え、成長機会の創出を目的とした戦略的な選択肢として重要性を高めています。

【漁業業界】M&Aによる譲渡(売り手)側のメリット

漁業業界のM&Aは、買い手・売り手ともに多くのメリットがあります。特に、経営環境が厳しさを増す近年の漁業では、売り手にとって「事業を次世代に引き継ぎ、将来への不安を軽減させられる」という点が注目されています。

ここからは、漁業業界のM&Aにおける売り手側のメリットを3つ紹介します。

後継者問題を解決させられる

漁業業界では就業者の高齢化が進み、後継者不在に悩む事業者が少なくありません。M&Aによって第三者に事業を譲渡すれば、親族や従業員に後継者がいない場合でも、漁業権やノウハウを維持したまま事業継続を図ることが可能です。

廃業という選択を避けつつ、長年築いてきた事業を引き継ぐことができる点は、後継者不在に悩む売り手にとって大きなメリットと言えるでしょう。

従業員の雇用維持や待遇改善につながる

M&Aによって経営基盤の安定した企業の傘下に入ることで、従業員の雇用を守りやすくなります。

買い手が資金力や組織力をもつ企業であれば、労働環境の改善や処遇の見直しが進むケースも多いため、従業員にとっても安心感のある選択肢となるでしょう。

売却益を獲得できる

事業を譲渡することで、経営者は売却益(創業者利益)を得られます。獲得した売却益は、引退後の生活資金に充てたり、新たな事業や投資に活用したりすることも可能です。

単なる廃業では得られない経済的リターンを確保できる点も、M&Aによる売り手ならではの利点と言えるでしょう。

【漁業業界】M&Aによる譲受(買い手)側のメリット

漁業業界のM&Aは、売り手の事業承継や経営課題の解決だけでなく、買い手にとっても中長期的な成長につながるメリットがあります。実際に近年では、原材料確保や事業基盤の強化を目的として漁業分野への参入を図る企業も増えています。

次に、漁業業界のM&Aにおける買い手側の主なメリットを3つ紹介します。

独自の経営資源をまとめて獲得できる

M&Aで漁業を買収することで、漁業権や漁船、設備、ノウハウといった経営資源を一括で取得できます。

新規参入の場合、経営資源を一から確保・整備するには多大な時間とコストがかかります。しかし、M&Aであれば即戦力となる事業基盤を短期間で確保できるほか、地域に根差した操業ノウハウや人材を引き継げる点も大きな強みです。

販路の拡大につながる

漁業事業者を譲り受けることで、既存の取引先や流通ルートをそのまま活用できるため、販路拡大を効率的に進められます。

特に食品製造業や外食産業にとっては、水産物の安定調達と販売の両面でシナジーを期待できます。結果として、事業全体の競争力向上にもつながるでしょう。

サプライチェーンの一体化を図れる

漁業分野を取り込むことで、調達から加工・販売までを一体化したサプライチェーンの構築が可能になります。これにより、原材料価格の変動リスクを抑えやすくなり、品質管理やコスト管理の高度化も期待できます。

漁業業界のM&Aは、安定した事業運営を実現するための有効な手段と言っても過言ではありません。

漁業業界の主なM&A事例3選

漁業業界のM&Aを検討する際には、実際に行われた事例を参考にすることで、取引の目的やスキーム、統合後の狙いを具体的にイメージしやすくなります。

最後に、漁業分野における代表的なM&A事例を3つ紹介します。

マルハニチロ株式会社×有限会社海晴丸

2024年11月30日、マルハニチロ株式会社は有限会社海晴丸の株式を取得し、子会社化しました。

譲渡(売り手)側 有限会社海晴丸
譲受(買い手)側 マルハニチロ株式会社
M&Aの目的
  • 水産原料の安定確保
  • 漁業から加工・販売までの一貫体制の強化
  • 持続可能な漁業体制の構築
M&Aのスキーム 株式譲渡

マルハニチロ株式会社は、国内外で水産物の調達・加工・販売を展開する総合食品企業です。
有限会社海晴丸は漁業を営む地域密着型の事業者で、特定魚種の安定的な漁獲に強みを持っています。
今回のM&Aにより、マルハニチロ株式会社は原料調達力の強化とサプライチェーンの安定化を図っています。

株式会社極洋×KOCAMAN BALIKÇILIK A.Ş.

2024年1月26日、株式会社極洋の子会社であるKyokuyo Europe B.V.は、トルコの水産会社KOCAMAN BALIKÇILIK A.Ş.を子会社化することを取締役会で決議しました。これにより、KOCAMAN BALIKÇILIK A.Ş.は株式会社極洋にとって孫会社となります。

譲渡(売り手)側 KOCAMAN BALIKÇILIK A.Ş.
譲受(買い手)側 Kyokuyo Europe B.V.(株式会社極洋の子会社)
M&Aの目的
  • 海外水産原料の安定調達
  • 欧州市場における事業基盤の強化
  • グローバルな供給体制の構築
M&Aのスキーム 株式譲渡

株式会社極洋は、水産物の加工・販売を主力とする食品メーカーです。
KOCAMAN BALIKÇILIK A.Ş.はトルコを拠点に水産物の加工・輸出を行っています。
本件M&Aは、海外市場への展開と原料調達力の強化を目的としたクロスボーダーM&Aの代表事例と言えます。

株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングス×株式会社マルキチ

2023年3月、株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングスは株式会社マルキチの株式を取得し、子会社化しました。

譲渡(売り手)側 株式会社マルキチ
譲受(買い手)側 株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングス
M&Aの目的
  • 水産加工分野への事業領域拡大
  • グループ内シナジーの創出
  • 地方食品企業の成長支援
M&Aのスキーム 株式譲渡

株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングスは、食品製造業を中心にM&Aを通じたグループ拡大を進める企業です。
株式会社マルキチは、北海道網走市に本社および工場を構える企業で、ホタテ・サケ・イクラといった水産加工・販売を手がけています。
今回のM&Aにより、株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングスの製品開発力や販路の強化が期待されています。

まとめ

漁業業界は、産出額が回復基調にある一方で、就業者数の減少や高齢化、水産資源の減少、設備の老朽化など、構造的な課題を抱えています。単独での事業継続や成長が難しくなった近年、事業承継や経営基盤の強化を目的としたM&Aの重要性が高まっています。

漁業業界のM&Aを成功させるためには、業界特性を理解したうえでの相手選びや適切なスキーム設計が欠かせません。長年にわたりM&A支援を行ってきた株式会社レコフでは、豊富な成約実績と専門知見をもとに、漁業業界特有の事情を踏まえた助言・サポートを行っています。漁業業界のM&Aを検討している方は、お気軽にご相談ください。

監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長

澤田 英之(さわだ ひでゆき)

金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。

 
 
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