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学校法人のM&A動向

業界別M&A

2025.06.30更新日:2025.06.30

少子化や教育ニーズの変化により、学校法人の経営環境は年々厳しさを増しています。そうした中、学校法人同士や医療法人・事業会社とのM&Aが注目されるようになりました。

M&Aによって経営資源の再構築や学生確保、教育の質向上が期待される一方で、学校法人特有の制度や手続きも多くあります。M&Aを進めるに当たっては、学校法人への正確な理解が欠かせません。

当記事では、市場動向や代表的なM&Aスキーム、売り手・買い手双方のメリット、成功のためのポイントまで詳しく解説します。

目次
 
 

学校法人とは?

学校法人とは、私立の幼稚園・小学校・中学校・高等学校・大学などを設置・運営する公益法人の一種です。学校教育法に基づいて設立され、教育を通じて公共の利益に貢献する役割を担っています。利益の分配を主な目的とする営利法人とは異なり、社会的使命の遂行が主眼です。

学校法人が設置できるのは「一条校」と呼ばれる学校のほか、専修学校や各種学校などが該当します。設立には文部科学大臣または都道府県知事の認可が必要であり、その運営には一定の制約があるのが特徴です。M&Aを検討する際は、学校法人特有の条件・環境を理解しておかなければなりません。

学校法人の特色

学校法人は、営利法人とは大きく異なる特徴を持ちます。主な特色は、以下の通りです。

●設立には許認可が必要となる

学校法人の設立には、所轄庁の認可が必須です。所轄庁は文部科学大臣または都道府県知事であり、設立の際は寄付行為(株式会社の定款に相当)を策定して申請しなければなりません。設置する学校の種類・目的・資産・所在地などの公益性や、教育目的の妥当性が審査されます。

●体制変更には制度的制約がある

学校法人の自主性は尊重されていますが、公教育を担う立場として制度的な制約も多くあります。たとえば、新たな学部やコースの設置や施設の増改築、合併・解散などの重要事項も、所轄庁の認可なく勝手に進めることはできません。資産の取り扱いも制限されており、解散時には残余財産の返還が認められないケースもあります。

●独自のガバナンス体制がある

私立学校法により、理事会・監事・評議員会の設置が義務づけられています。理事会は学校法人の最高意思決定機関であり、監事は財務や業務運営の監査役です。理事会が重要事項を決定する際は、諮問機関である評議員会に意見を求めなければなりません。

●収益は学生数に強く依存する

学校法人の収益の大半を構成するのは、授業料や入学金、施設費などの学納金です。中でも授業料の比率が高く、学生の定員割れや中退が増えれば即座に経営に影響します。そのため、収益の安定には学生数の確保が必須です。

学校法人は、設立・運営・財務・組織体制などが一般企業とは異なるため、理解が不十分なまま進めるとトラブルにつながる恐れがあります。M&Aを進める際には、その法的・制度的枠組みに注意を払うことが大切です。

学校法人の市場規模と今後の動向・課題

学校法人の将来性を見極めるには、まず現在の市場規模と変化傾向を把握することが重要です。以下では、学校数・在学者数・教員数の3つの観点から現状を整理します。

学校数

文部科学省が公表した調査結果によると、2024年度における幼稚園から専修学校までの各種学校数は前年度よりも減少しています。特に幼稚園と小学校の減少が顕著で、小学校・中学校ともに過去最少数を更新しました。

一方、幼保連携型認定こども園や義務教育学校など、教育課程の統合を図る新しい形態の学校は増加傾向にあります。義務教育学校とは、小学校と中学校の9年間を一貫して教育する制度です。いわゆる「中一ギャップ」の解消効果や、カリキュラム編成の自由度の高さなどが注目されています。

(出典:文部科学省「令和6年度学校基本調査(確定値)について公表します。」https://www.mext.go.jp/content/20241213-mxt_chousa01-000037551_01.pdf )

(出典:小美玉市「義務教育学校について」https://www.city.omitama.lg.jp/manage/contents/upload/59deb8aa0c3ba.pdf )

在学者数

在学者数は、減少と増加の二極化が進んでいる状況です。幼稚園・小学校・中学校・高等学校はいずれも前年度より減少しています。特に小学校は前年度比10万8,000人減の594万2,000人と、著しい減少が見られました。中学校も314万1,000人となり、同じく過去最少となっています。

一方で、幼保連携型認定こども園・義務教育学校・中等教育学校・特別支援学校は、いずれも過去最多を記録しました。また、高等教育機関への進学率は87.3%で過去最高を更新し、特に大学への進学率は62.3%と高水準です。

(出典:文部科学省「令和6年度学校基本調査(確定値)について公表します。」https://www.mext.go.jp/content/20241213-mxt_chousa01-000037551_01.pdf )

ただし、日本全体でみると15歳未満の子どもの割合は2024年現在で11.3%と、50年連続で低下しており、少子化の進行は深刻です。今後もこの少子化傾向は続くとされているため、今後の動向にも注視し続ける必要があります。

(出典:総務省「統計トピックスNo.141 我が国のこどもの数」https://www.stat.go.jp/data/jinsui/topics/pdf/topics141.pdf )

教員数

教員数は全体的に微増傾向です。2024年度のデータによると、特別支援学校・中学校・高等学校において女性教員の比率が過去最高となりました。中学校では44.8%、高等学校では33.8%、特別支援学校では62.9%となっており、女性の社会進出が進んでいることが伺えます。

(出典:文部科学省「令和6年度学校基本調査(確定値)について公表します。」https://www.mext.go.jp/content/20241213-mxt_chousa01-000037551_01.pdf )

一方で、教員の高齢化も進行しているのが現状です。文部科学省の調査によれば、大学教員の平均年齢は49.8歳、短期大学では53.0歳と、いずれも過去最高を記録しています。また、短期大学では50歳以上の教員比率が61.5%に達しました。

(出典:文部科学省「令和4年度学校教員統計調査 結果の概要(確定値)」https://www.mext.go.jp/content/20240321-mxt_chousa01-000030586_1.pdf )

このように、学校法人の教員体制はジェンダーバランスの面では改善が見られるものの、高齢化と人材不足への備えは引き続き重要なテーマです。

学校法人のM&A動向

学校法人は、少子化による学生数の減少や教育ニーズの多様化、財務基盤の脆弱化など、多くの課題に直面しています。

入学者確保の競争が年々激化する中、教育の質や特色を維持・向上させながら経営の安定化を図らなければなりません。こうした課題の解決に向けて、M&Aを活用した再編や事業承継が広まりつつあります。

ここからは、学校法人におけるM&Aの主な動向について紹介します。

学校法人同士のM&A

学校法人同士のM&Aでは、主に「垂直的統合」と「水平的統合」の2パターンが見られます。

「垂直的統合」の代表例は、大学を運営する学校法人が中学校や高校を運営する法人を買収し、付属校化するケースです。内部進学制度の構築により、大学側は安定した入学者数の確保が可能となります。中等教育段階から一貫した教育を提供できるため、教育の質を重視する保護者層の支持を得られるのもメリットです。

一方の「水平的統合」では、両法人が持つ学部・学科の構成を統合し、教育内容や専門分野の相互補完やブランド力の強化を狙います。たとえば、工学系に強みを持つ大学と、経済学部を有する大学が統合すれば、文理融合型の新たな魅力を打ち出すことが可能です。こうしたシナジー効果を求めて統合を図る事例も増加しています。

医療法人や事業会社とのM&A

学校法人のM&Aは、学校法人同士だけにとどまりません。医療法人や事業会社との連携によるM&Aも少しずつ増えてきています。

医療法人が買い手となる場合、主な対象は医学部・看護学部など医療系の学部を持つ学校法人<?です。医療機関と教育機関の連携により、優秀な人材の早期育成と、自法人の医療サービスへの直接還元が期待されます。臨床現場の知見を生かした実践的な教育が可能となる点も、双方にとって大きなメリットです。

事業会社によるM&Aは未だ多くはないものの、経営不振に陥った学校法人の再建を目的として、事業会社が経営ノウハウを生かす形で参入する事例が出始めました。企業の資本力とマネジメント力を取り入れ、教育機関としての質の維持と経営の安定を両立させる動きは、今後広まる可能性があるでしょう。

【学校法人】M&Aによる「譲渡(売り手)側」のメリット

学校法人におけるM&Aは、単なる経営再建の手段ではなく、売り手・買い手双方にとって多くの利点がある選択肢です。以下では、売却側の主なメリットについて紹介します。

廃校を避けられる

学校法人の経営は、学生数に大きく左右されます。少子化が進行する昨今では、学校の定員割れが続いて学校法人の財務状況が悪化し、廃校・閉校を余儀なくされるケースが珍しくありません。 廃校となれば、新入生の募集停止や在校生の転校手続き、教職員の解雇、所轄庁への届け出など、運営側と現場の両方に大きな混乱が生じます。学生の学習環境が損なわれるだけでなく、地域にとっても大きな損失です。

しかし、M&Aを通じて他法人へ経営資源を譲渡すれば、学校運営を継続する道が開かれます。廃校という最悪の事態を回避できれば、生徒は安心して学校生活を続けられる上、教職員の生活基盤も維持できるでしょう。

売却益(譲渡益)を獲得できる

M&Aによる学校法人の譲渡では、資産の売却益を得られる点も見逃せません。土地や校舎などの不動産資産を有している場合は、譲渡額が高額になる可能性があります。得られた売却益を残務処理や退職金の支払い、債務の整理などに充てれば、法人の清算や関係者への対応を円滑に進められるでしょう。

経営破綻による突然の閉校の場合、残される資産の有効活用が困難になる一方、計画的なM&Aであれば段階的な引き継ぎや再編が可能となります。なお、売却後に教職員のリストラが行われる場合でも、買収側から退職金が支払われるのが一般的です。

【学校法人】M&Aによる「譲受(買い手)側」のメリット

学校法人のM&Aには、売り手側だけでなく買い手側にとっても多くの利点があります。経営基盤の強化や教育事業への新規参入など、目的に応じた戦略的な取得が可能です。以下では、買い手側が得られる代表的なメリットを紹介します。

新規開設の手間を大幅に削減できる

学校法人を新設するとなれば、所轄庁からの認可が必要となり、資金調達や施設整備など多くの準備が求められます。審査基準も厳しく、認可が下りるまでには長い時間と労力がかかるでしょう。 しかし、既存の学校法人をM&Aで取得すれば、こうした手間や時間を大きく省略できます。すでに認可された法人を引き継ぐため、法的手続きも簡略化され、事業の立ち上げをスムーズに進められます。学校法人に必須となる広い土地や建物、各種設備を新調する必要もありません。

これらは、新規参入や教育事業の拡大を目指す企業・法人にとって、大きなアドバンテージと言えます。

学生・教員をまとめて確保できる

M&Aによって既存の学校法人を譲受すれば、その学校に在籍する学生や教員を一括で引き継ぐことができます。学生の定員割れも珍しくない状況が続く中、初めから一定数の在校生を確保できるのは、新規開設では得られない大きなメリットです。

また、教育の質を保つのに人材の確保が重要ではあるものの、専門性の高い分野では優秀な教員の採用が難しいケースが少なくありません。

しかし、M&Aによって所属する教員をそのまま迎え入れてしまえば、教育水準の維持とカリキュラムの継続性を担保できます。在校生の中に将来的に教員候補となる人材がいれば、育成から採用までの流れを構築することも可能です。

ブランド力の獲得・強化につながる

買収対象の学校法人が既に一定のブランド力を持っている場合、その知名度や信頼性をそのまま活用できるのもメリットの1つです。これは、生徒募集力の向上や教育内容の品質向上、企業評価の強化にも繋がります。

例えば、地方の有力校を取得すれば、地元での信頼を足がかりに全国展開を進めることも可能です。ブランド力の強化によって志願者が増えれば、安定した経営基盤を築きやすくなり、長期的な収益向上にも期待が持てるでしょう。教育の質を維持しつつ、事業としての発展性を高められる点がM&Aの魅力と言えます。

学校法人における主なM&Aスキーム

学校法人は非営利法人であり、株式会社のように株式を発行することができません。そのため、一般的な株式譲渡による経営権移転ではなく、学校法人に適した特有のスキームが採用される点に注意が必要です。

以下では、学校法人のM&Aで利用される代表的な3つのスキームを紹介します。

経営支配権の譲渡

学校法人において最も一般的なスキームが、経営支配権の譲渡です。学校法人は株式を持たないため、経営権を移すには、理事長および理事を交代させる必要があります。学校法人は理事会・監事・評議員会といった機関で構成されており、理事会が最高意思決定機関として運営の中心を担っているためです。

この手法では、譲受側が自社の関係者を理事として新たに選任し、理事会の過半数を掌握することで経営支配権を取得します。譲渡側の役員に対しては、退任時に退職金を支払って対価とするのが一般的です。なお、外部理事や監事、評議員の構成も私立学校法で定められているため、移転前に体制を整える必要があります。

合併

学校法人同士であれば、合併による統合も可能です。合併には「吸収合併」か「新設合併」の2種類がありますが、実務上は既存法人が存続する吸収合併が多く用いられています。合併には、理事の3分の2以上の同意と所轄庁の許可が必要です。

合併により組織や資産、教職員、学生をまとめて一体化できるため、効率的な再編が可能になります。さらに、一定の要件を満たす場合は「適格合併」として税制上の優遇措置を受けられる場合があります。反対に、非適格合併の場合は債務の弁済や資産の再評価といった手続きが発生するため、事前に十分な調査が必要です。

事業譲渡

事業譲渡は、学校法人が設置・運営する特定の学校や施設のみを切り出して譲渡するスキームです。法人そのものの統合や解散を伴わず、特定の教育事業だけを譲渡できる点が特徴です。例えば、複数の学校を運営している法人が、赤字の学校だけを他法人へ譲渡するなど、事業の選択と集中を目的とした活用が可能です。

このスキームでは、譲渡対象となる学校や施設の資産・負債・契約関係・教職員の雇用契約などを、個別に引き継がなければなりません。手続きは複雑で時間もかかりますが、双方が必要な事業だけを選んで取引できる手法です。経営規模の整理や非中核事業の切り離し、あるいは買い手側のピンポイントな事業拡大の手段として活用されています。

学校法人のM&Aを成功させるためのポイント

学校法人は通常の企業とは異なる制度や目的を持つため、M&Aを成功に導くには、売り手・買い手の双方が信頼関係を築き、適切な準備と判断を行うことが重要です。以下では、成功のために意識したいポイントを3つ紹介します。

●学校法人の質やガバナンス体制を確認する

買い手側は、譲渡対象となる学校法人の教育内容や設備、経営方針などを丁寧に確認する必要があります。ガバナンスの不備は、経営リスクやブランドイメージの毀損につながる可能性があるためです。特に理事会・監事・評議員会といったガバナンス体制が機能しているかを見極めなければなりません。

●施設や設備の管理状況をチェックする

校舎や教育設備が維持状況も、重要な評価基準です。老朽化や管理不全が進んでいる場合は、譲受後に多額の修繕費が必要になる恐れがあります。売り手側は、設備投資の履歴や保守体制を整理しておくと、スムーズに交渉が進むでしょう。

●M&Aアドバイザーに相談する

制度上の制約や関係者の多さなどから、学校法人のM&Aには専門的な知識と調整力が求められます。初期段階からM&Aアドバイザーや専門家に相談すれば、適切なスキーム選定や手続きの進行が可能となり、トラブルを防げるでしょう。特に学校法人に詳しい専門家を選ぶことが成功率を高めるポイントです。

学校法人のM&Aでは、表面化しにくい経営リスクや制度的な制約が複雑に絡みます。売却益や事業拡大を目指すだけでなく、生徒や教職員の学びと働きの環境を守るという観点も欠かせません。事前準備と専門的な支援を活用し、慎重かつ確実に進行させることが成功の鍵となります。

まとめ

学校法人のM&Aは、少子化による経営難への対策として注目されている方法です。売り手にとっては廃校回避や売却益の確保が期待でき、買い手には新規参入の効率化やブランド力強化といったメリットがあります。

株式譲渡が使えない学校法人で活用されるのは、経営支配権の移転・合併・事業譲渡といったスキームです。M&Aを成功させるためには、ガバナンス体制や施設管理の確認をはじめ、事前準備が欠かせません。信頼できる専門家への相談も有効な一手となります。

監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長

澤田 英之(さわだ ひでゆき)

金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。

 
 
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