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菓子製造業界のM&A動向

業界別M&A

2025.12.22更新日:2025.12.22

和菓子・洋菓子などの菓子類は嗜好品としての人気が高く、菓子製造業界には多くのメーカーが存在します。しかし、菓子製造業界には経営課題も多くあり、M&Aによる業界再編が進んでいる状況です。

菓子製造業界のM&Aを検討する際は、業界の課題やM&Aによるメリットなどを理解しましょう。

本記事では菓子製造業界の特徴や市場規模を説明した上で、主な課題とM&Aの動向・メリット、M&Aを成功させるためのポイントなどを解説します。

目次
 
 

菓子製造業界とは?

菓子製造業界とは、パン類や菓子類を製造する「菓子製造業」の事業者で構成される業界です。

日本における菓子は、大まかな分類として和菓子と洋菓子の2つがあります。和菓子は日本の伝統的な製法や材料で作られた菓子を指し、羊羹・大福・せんべいなどが代表的です。一方で洋菓子は西洋の製法や食文化をベースとして作られる菓子で、ケーキ・クッキー・チョコレート等を指します。

菓子製造業界には和菓子製造・洋菓子製造のどちらも含まれているものの、メーカーは和菓子または洋菓子のどちらかを専門とすることが多い傾向にあります。但し、和菓子・洋菓子両方を扱うメーカーもあり、「和洋菓子・和スイーツ」も多く登場していて、和菓子と洋菓子の境界は薄くなっていると言えます。

尚、菓子製造業を営むには、「菓子製造業許可」の取得が必要です。菓子製造業許可は厚生労働省が定める32業種の営業許可の1つであり、管轄の保健所に申請することで取得できます。

菓子製造業界の市場規模

全日本菓子協会によると、2022年~2024年における菓子製造業界全体の小売金額は下記のように推移しています。

2022年 3兆4,361億円
2023年 3兆6,835億円
2024年 3兆8,785億円

(出典:全日本菓子協会(ANKA)「令和6年 菓子の生産数量・生産金額等 (推定)に係るコメント」/
https://anka-kashi.com/images/statistics/r06.pdf

コロナ禍による影響を菓子製造業界も受けており、2021年は小売金額の落ち込みが見られていました。しかし、社会全体でコロナ禍からの回復基調が見られた2022年には菓子製造業界の小売金額は回復しており、2023年には家庭内だけでなくオフィスでの菓子需要も回復、そして2024年は訪日外国人による国産菓子の人気も高まり、順調に増加傾向にあります。

菓子製造業界では新商品・健康志向商品の開発や各種コンテンツとのコラボが継続的に行われ、サブスクリプションなどeコマースでのビジネスモデルも登場しています。菓子製造業界はトレンドの取り込みや意欲的な施策実行が行われていて、市場規模の成長が見込まれている業界です。

菓子製造業界が抱える課題

菓子製造業界は成長傾向にある一方で、菓子の製造コストや顧客ニーズの変遷などの課題も抱えています。

ここからは、菓子製造業界が抱える4つの課題について説明します。

原材料・物流費・人件費の高騰

菓子製造業界では近年、原材料・物流費・人件費の高騰が続いています。中でも多くの菓子原材料として使用されている小麦は、ウクライナ情勢や円安の影響により高騰が続いている状況です。カカオ豆も世界的な供給不足によって高騰しており、菓子製造業界は菓子原材料の価格高騰に悩まされています。物価高への対応とした労働者の賃上げも社会的に求められており、2024年には大手の菓子メーカーで賃上げが実施されました。

製造コスト増加への対策は価格改定が一般的であるものの、消費者の節約志向も強まっており、価格改定が売上に影響を及ぼすことが懸念されています。

「味」以上の付加価値の必要性

日本の菓子業界のレベルは非常に高く、美味しいことは当然として「味」以上の付加価値を提供できるかが重要となっています。近年ではSNS映えするお菓子がブームとなっているように、見た目のインパクトなどヒット商品を生み出すだけの魅力があることが不可欠です。また、商品の魅力を消費者へと適切に伝えられる発信力も求められるようになっています。WebサイトやSNSなどの顧客接点を運用・活用し、ブランドイメージを高める努力が必要となるでしょう。

人口減少による市場の縮小

菓子製造業界の市場規模は短期的には堅調に推移するとされているものの、中長期的には人口減少による市場の縮小が予測されています。菓子メーカーは、人口減少や高齢者の増加によるニーズの変化に対応しなければならないでしょう。国内市場の縮小への対策としては、海外の市場開拓という方法があります。大手メーカーでは国内商品の輸出はもちろん、現地の嗜好に合った商品の開発・販売を行うケースも少なくありません。

大手による寡占状態の常態化

現在の菓子製造業界は大手による寡占状態が続いており、中小規模のメーカーは事業成長を狙いにくいことが課題です。

大手メーカーは資金・人材・設備といった経営資源を豊富に持ち、菓子業界ならではの激しい流行の変化にも都度対応できる余力があります。一方で個人経営の菓子店は顧客ニーズのリサーチや、その時々の顧客ニーズを反映した新商品の開発が難しく、継続的な成長は困難です。

原材料の高騰や付加価値の必要性、将来的な市場縮小といった課題も含めて、小規模の店舗が生き残るにはM&Aによる他社との協業も1つの手段となるでしょう。

菓子業界のM&A動向

様々な課題を抱える菓子業界では、課題を解決するための手段としてM&Aを実施するメーカーが増えています。M&Aを検討する菓子メーカーの方は、菓子業界のM&A動向を把握し、自社のM&A戦略を考えると良いでしょう。

以下では菓子業界の主なM&A動向を3つ挙げて、それぞれの目的や内容を紹介します。

スケールメリットの享受を目的とした同業種・隣接業種M&A

菓子メーカー同士の同業種M&Aや、食品加工業・小売業などとの隣接業種M&Aでは、スケールメリットの享受を目的としたM&Aが行われています。スケールメリットの享受によって原材料の仕入れや製造にかかるコストが削減し、原材料・物流費・人件費の高騰に対策することが可能です。

スケールメリットの享受を目的としたM&Aは、大手が絡むM&Aだけでなく中小の事業者でも実現できる点も特徴です。販売エリアやサプライチェーンでの立ち位置が異なる事業者同士が協業することで、1社のときよりも効率的な経営ができるようになります。

多角化を目的とした他業種M&A

事業の多角化を目的とした他業種M&Aも、菓子業界では多く実施されています。菓子事業とは別に収益源となる事業を作っておくことで、大手が寡占する菓子業界での売上低下に備えられます。また、多角化によって多岐にわたる事業の技術・ノウハウを吸収すれば、菓子事業で新たな価値創出を図れるようになるでしょう。商品の付加価値を高める体制が構築できれば売上アップを目指せます。

海外進出を目的としたクロスボーダーM&A

菓子業界では大手を中心に、海外進出を目的としたクロスボーダーM&Aが行われています。クロスボーダーM&Aによって海外市場での競争力を確保できるようになり、国内市場での競争や業績の頭打ちを回避することが可能です。

菓子は国柄・土地柄によって嗜好が分かれる商品であり、海外進出を成功させるには現地で好まれる味や提供方法を理解しなければなりません。現地企業とのクロスボーダーM&Aは、海外進出に必要な現地の知識を速やかに吸収できる手段となります。

【菓子業界】M&Aによる「譲渡(売り手)側」のメリット

M&Aの譲渡側は事業や会社を売却する側であり、廃業の回避や売却益獲得といったメリットがあります。

菓子事業や会社の売却を検討している方は、M&Aの目的とメリットが合っているかを考えることが大切です。

ここからは、菓子業界でのM&Aによる譲渡側のメリットを3つ紹介します。

会社・事業を存続できる

M&Aを行うことで、菓子会社や事業を譲受側企業のもとで存続させられます。資金面で経営難になっている場合や、後継者が不足している場合でも、廃業・倒産をすることなく会社を存続させられる点がメリットです。廃業・解散をすると土地や設備の処分コストが発生します。M&Aを選択すれば会社や事業は存続するため、余計なコストが発生しません。また、存続する会社・事業で従業員はそのまま働けるため、従業員の雇用も守ることができます。中小の菓子メーカーは地域の人を雇用しているケースが多く、M&Aは地域の雇用を維持することにも繋がります。

個人保証や担保から解放される

M&Aで会社や事業を譲渡すると、経営者の個人保証や担保も譲受側に継承されることが期待できます。個人保証とは、金融機関から融資を受ける際に経営者自身が債務を保証することです。個人保証や担保を設定していると、経営難に陥った際に債務リスクが経営者に発生します。

M&Aで個人保証や担保を譲受側に継承すれば、経営者は個人保証や担保から解放されます。債務リスクに悩まされず、M&A後にも別事業の創業などに挑戦できるようになるでしょう。

売却益を獲得できる

M&Aでは、譲渡側の経営者は会社や事業を手放す代わりに売却益を獲得できます。菓子メーカーの売却益はブランド価値や製品製造の特許、技術力などが評価された金額です。

獲得した売却益の受け取り手は、事業譲渡であれば事業を売却した会社であり、株式譲渡であれば株式を売却した株主です。売却益を活用して新しい事業を興す、既存事業の経営基盤を強化するなど、従来は難しかった計画を実行できるようになります。

【菓子業界】M&Aによる「譲受(買い手)側」のメリット

菓子業界のM&Aにおける譲受側は、菓子事業や会社を取得する立場です。譲渡側の経営資源を引き継ぐ譲受側には、自社の組織強化やスケールメリットの獲得といったメリットがあります。

M&Aによる譲受側の2つのメリットについて、具体的にどのような利点があるかを説明します。

経営資源の確保による組織強化が期待できる

M&Aの譲受側は、経営資源の確保によって自社の組織強化が期待できます。

菓子会社における経営資源とは、人材・顧客・ノウハウや、ブランド化したお菓子の営業権などのことです。いずれも菓子会社を経営するには必要な資源であり、異業種M&Aでは一から事業を興すよりも、M&Aで取得したほうがスムーズな経営開始につながるでしょう。

また、同業種M&Aであれば生産設備や流通ルートの拡大が大きなメリットとなります。中小の菓子会社は特定地域の販売に強みを持っていることが多く、そのような会社を買収すれば地域のニーズを引き継いで売上アップを目指せます。

スケールメリットが見込める

M&Aによって自社の事業規模が拡大することにより、菓子製造に必要なコストが小さくなるスケールメリットが見込めます。仕入れ価格や人件費などが圧縮されることにより、製品価格を押し下げることが可能です。

菓子製造業界は原材料・物流費・人件費が高騰する一方で、消費者の節約志向が見られるようになっており、製造コストをいかに抑えるかが重要となっています。スケールメリットによって製品価格の上昇を抑えることで、国内はもちろん海外の市場においても競争力を高められます。

菓子業界における主なM&A事例4選

菓子業界のM&Aを成功させるためには、M&Aの事例を参考にするのも有効です。M&Aを実施した2社の立場と目的、M&Aをどのようなスキームで行ったかを理解し、自社のM&Aに活かしましょう。

以下では、菓子業界における主なM&A事例を4つ解説します。

株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングス×株式会社小田喜商店

株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングスは2022年6月、株式会社小田喜商店の全株式を取得して子会社化しました。

譲渡(売り手)側 株式会社小田喜商店
譲受(買い手)側 株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングス
M&Aの目的
  • 経営ノウハウの共有
  • 中小企業支援プラットフォームによる支援体制の構築
  • 地域特産作物のブランド力向上
M&Aのスキーム 株式譲渡

株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングスは、中小食品企業の支援・活性化を目的としてグループ化を進める持株会社です。譲渡側の株式会社小田喜商店は、地元の栗にこだわった栗菓子などの各種商品を製造する菓子メーカーです。株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングスは、株式会社小田喜商店の強みに着目し、事業成長を目的として本M&Aを実施しています。

竹下製菓株式会社×株式会社清水屋食品

竹下製菓株式会社は2022年1月、株式会社清水屋食品を買収して子会社化しました。

譲渡(売り手)側 株式会社清水屋食品
譲受(買い手)側 竹下製菓株式会社
M&Aの目的
  • ブランド力のある商品の取得
  • 後継者問題の解決
M&Aのスキーム 株式譲渡

竹下製菓株式会社は九州エリアを中心に高い知名度がある氷菓メーカーであり、冬場にも売上を見込める商品提供を模索していました。一方の株式会社清水屋食品は製パン会社で、看板商品のクリームパンが全国的なヒットとなったものの、後継者問題に悩まされていました。本M&Aは、譲渡側・譲受側が抱えていた課題をともに解決できる内容となっています。

株式会社JFLAホールディングス×株式会社栄喜堂

株式会社JFLAホールディングスは2022年3月、株式会社栄喜堂の全株式を取得して子会社化しました。

譲渡(売り手)側 株式会社栄喜堂
譲受(買い手)側 株式会社JFLAホールディングス
M&Aの目的
  • 生産事業の強化
  • 既存事業とのシナジー効果の創出
M&Aのスキーム 株式譲渡

株式会社JFLAホールディングスは、食品や飲料などの商品を生産・流通・販売する総合食品企業グループです。一方で株式会社栄喜堂は、手作り感にこだわったパンや洋菓子の製造卸売業を営む製パン会社です。本M&Aによって株式会社JFLAホールディングスは生産事業を強化するとともに、既存事業との高いシナジー効果を見込めるとしています。

亀田製菓株式会社×THIEN HA KAMEDA JOINT STOCK COMPANY

亀田製菓株式会社は2021年5月、THIEN HA KAMEDA JOINT STOCK COMPANYの株式を取得し、子会社化しました。

譲渡(売り手)側 THIEN HA KAMEDA JOINT STOCK COMPANY
譲受(買い手)側 亀田製菓株式会社
M&Aの目的
  • ベトナムでの事業基盤の強化
  • 将来性が高い生産拠点の確保
M&Aのスキーム 株式譲渡

亀田製菓株式会社は米菓を中心とした菓子類を製造する米菓メーカーです。THIEN HA KAMEDA JOINT STOCK COMPANYは2013年に亀田製菓株式会社との合弁会社として設立されました。亀田製菓株式会社は本M&Aで子会社化することにより、成長著しいベトナム市場における競争力向上を目指しています。

また、弊社でも成約実績がございます。ご参考までにご紹介させていただきます。
成約インタビュー(https://www.recof.co.jp/case/detail/08.html
成約実績(https://www.recof.co.jp/achievement/detail/60.html

菓子業界のM&Aを成功させるためのポイント

菓子業界のM&Aを成功させるためには、以下のポイントを押さえてM&Aを進めましょう。

●M&Aの目的を明確化しておく
M&Aの目的を明確に据えると、目的に合うM&Aスキーム・M&A先の選択や条件交渉を行えるようになります。自社の課題やビジョンを分析し、M&Aによって何を達成・解決したいかを明確化してください。

●シナジー効果を最大化できる取引先を選ぶ
M&Aによって大手の傘下に入ったり、事業拡大を目指したりするときは、シナジー効果を重視することが大切です。事業領域や展開する商品、菓子製造の設備・技術などを検討して、シナジー効果を最大化できる取引先を選びましょう。

●実績の豊富な専門家に相談する
M&Aをスムーズに進めるには、実績が豊富な専門家の協力が必要です。M&Aの専門家は金融機関や公的機関、M&Aアドバイザーなどが挙げられます。

M&Aの相談先としては、M&A先の紹介や交渉仲介も行ってくれるM&Aアドバイザーがおすすめです。M&Aアドバイザーは譲渡側・譲受側双方の利益を考えてくれるため、納得できるM&Aを実施できます。

まとめ

菓子製造業界は安定した市場規模があるものの、将来的な市場縮小や原材料費などの高騰といった課題も存在します。課題解決の手段として同業種・隣接業種でのM&Aや、クロスボーダーM&Aが活発に行われている業界です。

菓子製造業界のM&Aは、譲渡側は会社・事業の存続や個人保証からの解放、譲受側には組織力の強化やスケールメリット獲得などのメリットがあります。

M&Aを実施したい方は、紹介したM&A事例や成功のポイントを押さえつつ、M&Aアドバイザーのような実績豊富な専門家の協力も得ると良いでしょう。

監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長

澤田 英之(さわだ ひでゆき)

金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。

 
 
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