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業界別M&A
不動産を手放す・取得する方法としては、一般的に「不動産売買」が広く知られています。しかし近年では、不動産そのものではなく、不動産を保有する会社の株式を譲渡することで実質的に不動産を引き継ぐ「不動産M&A」という手法も注目されています。
不動産M&Aは、後継者不足の解消や税負担の軽減、効率的な資産承継などを目的に活用されるケースが多く、不動産売買とは異なる特徴やメリット・デメリットがあります。そのため、仕組みやリスクを正しく理解しておくことが重要です。
今回は、不動産M&Aの基本的な仕組みや目的から、売り手・買い手それぞれのメリット・デメリット、さらに税金の考え方や具体的な事例、実施の流れまでを分かりやすく解説します。
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事業承継・譲渡売却は
不動産M&Aとは、法人が所有する「不動産」の獲得を主な目的として行うM&Aのことです。
一般的なM&Aでは、事業や資産の承継に伴って不動産も引き継がれますが、不動産M&Aでは、不動産の取得自体を主な目的として、不動産を保有する会社の株式などを譲渡する形で取引が行われます。
対象となるのは、不動産会社に限りません。オフィスビルや商業施設、住宅地などを保有する企業はもちろん、自社ビルを持つ製造業や流通業なども含まれます。また、廃業を検討している企業が保有する不動産が、不動産M&Aによって引き継がれるケースもあります。
このように不動産M&Aは、不動産そのものだけでなく、その不動産を所有する企業の資産や負債、従業員なども含めて承継される点が特徴です。
なお、不動産会社同士のM&Aを指して不動産M&Aと呼ぶ場合もありますが、基本的には業種を問わず、不動産を保有する法人であれば対象となります。
不動産M&Aと不動産売買の大きな違いは、「譲渡対象」と「課税関係」にあります。
不動産売買では、不動産そのものが直接譲渡されます。一方、不動産M&Aでは、不動産を保有する会社の株式が譲渡対象となります。そのため、形式上は不動産の所有者は変わらず、会社の株主のみが変更される点が特徴です。
また、不動産売買では不動産の売却益に対して課税され、さらに会社を清算する場合には追加の税負担が生じることがあります。
しかし、不動産M&Aの場合は株式の譲渡益が課税対象となり、株式譲渡代金を直接受け取ることが可能です。加えて、不動産の名義変更が発生しないことから、不動産取得税や登録免許税も課されません。
ただし、不動産売買が主に不動産のみを対象に調査するのに対し、不動産M&Aでは不動産に加えて企業全体が調査対象となる点に注意が必要です。簿外債務の有無なども含めた詳細な調査においては、より専門的な知識と手続きが求められます。

近年、不動産M&Aは、不動産を保有する企業の事業承継や廃業時の有効な選択肢として注目されています。その背景には、後継者不足の深刻化や、廃業時の税負担の大きさといった課題があります。
特に、不動産を所有する企業が廃業する場合、通常の不動産売却では法人税や所得税が発生し、最終的な手取り額が大きく減少する可能性があります。一方で、不動産M&Aでは、不動産を保有する会社の株式を譲渡する形を取るため、税負担を抑えられる場合があります。
このように、不動産M&Aは単に不動産を売却する手段ではなく、事業承継や資産承継、税務対策など、あらゆる目的で活用されています。
ここからは、不動産M&Aが行われる主な目的について詳しく紹介します。
不動産M&Aが活用される大きな理由の1つが、後継者不足の解消です。
帝国データバンクの「全国・後継者不在企業動向調査(2025年)」によると、後継者が不在の企業は50.1%と依然として半数を占めており、多くの企業が事業承継の課題を抱えています。
(出典:株式会社 帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2025年)」/
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20251121-successor25y/)
特に、不動産を保有する企業の場合、後継者がいないまま廃業すると、不動産の売却や清算手続きに多くの負担が生じます。
また、従来は親族へ引き継ぐ「同族承継」が一般的でしたが、近年は第三者へ引き継ぐ「第三者承継」を選択するケースが増加しています。「第三者」への継承方法として、最も用いられている手段がM&Aです。
不動産M&Aを活用すれば、不動産とともに会社を第三者へ引き継ぐことができるため、廃業を回避しながら資産を承継できる点が大きなメリットです。
税負担の軽減も、不動産M&Aを行う重要な目的の1つです。
通常、不動産を売却する場合は、不動産の売却益に対して法人税が課されます。さらに、清算後に残った資金を株主へ分配する際には、配当として所得税が課されるため、二重に税負担が発生することがあります。
一方、不動産M&Aでは、不動産を保有する会社の株式を譲渡する形となるため、株式譲渡益に対する課税のみで済みます。結果的に、不動産を直接売却する場合と比較して、税負担を抑えられる可能性があります。
このように不動産M&Aは、不動産の売却と事業承継を同時に実現しながら、税務面でも有利になる場合がある点が大きな特徴です。

不動産M&Aでは、不動産を保有する企業をどのような形で譲渡するかによって、いくつかの手法(スキーム)が用いられます。
なかでも代表的なのが、「株式譲渡」と「会社分割」の2つです。どちらのスキームも、不動産を効率的に引き継ぐための方法ですが、譲渡の対象範囲や手続きの流れが異なるため、それぞれの特徴を理解したうえで選択することが重要となります。
ここからは、不動産M&Aの代表的なスキームである株式譲渡と会社分割について、詳細を説明します。
株式譲渡とは、不動産を保有する企業の株式を買い手企業が取得し、その会社の経営権を引き継ぐことで、不動産を間接的に取得する方法です。
株式を取得することで、買い手は対象企業を子会社化し、その企業が所有する不動産を自社グループの資産として活用できるようになります。
株式譲渡では、不動産だけでなく、契約関係や権利義務なども含めて企業ごと引き継ぐことになるため、不動産の名義変更などの個別手続きが不要となる点が特徴です。
買収後は、不動産の管理会社として売り手企業を存続させるケースもあれば、不動産のみを自社へ移転したうえで、売り手企業を解散するケースもあります。
特に、不動産の取得そのものが主な目的である場合は、不動産の活用や売却を進めた後に会社を整理するケースも見られます。
手続きの効率性や柔軟な活用が可能であることから、不動産M&Aにおいて広く用いられているスキームと言えます。
会社分割とは、企業が保有する事業や資産の一部を切り離し、別の会社へ移転する手法です。
不動産M&Aでは、対象となる不動産のみを新たに設立した会社へ移し、その会社の株式を買い手へ譲渡する形で活用されることが多いです。
この方法を用いることで、売り手企業は本業を継続しながら、不動産だけを切り離して売却することが可能になります。また、買い手にとっても、不要な事業や負債を引き継ぐことなく、目的の不動産のみを取得できる点がメリットです。
譲渡対象を限定できる柔軟性の高いスキームとして、不動産M&Aにおいて重要な役割を担っています。不動産以外の事業も継続する予定がある場合や、特定の不動産だけを譲渡したい場合に適した方法と言えます。

不動産M&Aは、不動産を保有する企業にとって、資産の整理や事業承継を円滑に進めるための有効な手段の1つです。
単純に不動産を売却する場合と比べて、税務面や手続き面でのメリットが期待できるほか、会社の状況によっては事業や従業員の将来を守ることにもつながります。
ここからは、不動産M&Aを活用することで売り手側が得られる具体的なメリットについて詳しく紹介します。
売り手企業にとって最も大きなメリットは、「不動産売却益」に対する法人税・所得税がかからないという点で節税効果が高い点です。
通常の不動産取引を行うと、売却益に対して法人税・所得税が課されます。一方、M&Aによる不動産取引を行うと、「株式譲渡益」に対して一律20.315%の所得税・住民税が課されるだけで済みます。
「株式譲渡益」に対する課税のほうは税率が低く、手元に多くの金額が残りやすいのがメリットです。
好条件の立地に不動産を持っていても、オーナーが必ずしも高い収益を得ているとは限りません。自社ビルを建てて自分たちで使っているというケースも往々にしてあります。
価値の高い不動産はそれだけ固定資産税も高くなるため、なんとか収益性を出したいというのが正直なところでしょう。こうした際に不動産M&Aを利用すれば、より多くの現金が手元に残る形で売却することが可能です。
また、非上場企業の場合、市場に株式を公開していないため株主を募って資金を得るという手法が使えません。そのため、株式の現金化がしにくいと言えます。しかし、不動産M&Aによって不動産だけでなく株式も譲渡することで、非上場株式を現金化できます。
廃業時には、解散登記をはじめ複数の登記処理や賃貸の原状回復、設備の処分、厚生年金保険や雇用保険の廃止手続きを行うなど煩雑な処理に追われ、コストもかさみます。
しかし、M&Aで事業譲渡した場合にはこれらの処理が不要になるというのがメリットとして挙げられます。売り手側は不動産を含めた事業を丸ごと売却する形になるため、廃業コストがかかりません。
シンプルに廃業を選ばないことは、コスト以外のメリットもあります。「先代あるいは自身が創りあげた事業を潰したくない」という思いをもちながらも後継者に恵まれなかった企業にとっては、有利に不動産と事業を手放す手法と言えるでしょう。
後継者不足や経営上の課題によって廃業を検討している場合でも、不動産M&Aによって会社を第三者へ譲渡することで、事業を継続できる可能性があります。これにより、従業員の雇用を維持しやすくなる点は大きなメリットです。
また、不動産M&Aの買い手は、対象企業を取得できるだけの資金力や経営基盤を備えているケースが多く、従業員にとってはより安定した環境で働ける可能性があります。場合によっては、経営資源の拡充により、待遇の改善やキャリアの選択肢が広がることも期待できます。
不動産M&Aは、節税や資産承継の面で多くのメリットが期待できる一方で、通常の不動産売却とは異なる注意点もあります。
不動産M&Aでは、取引の対象が不動産単体ではなく「会社そのもの」となるため、売却までのプロセスが複雑になりやすく、条件面でも多くの影響を受ける可能性があるでしょう。
「当初に想定していた条件で売却できない」という事態を防ぐためにも、あらかじめデメリットも理解しておくことが大切です。ここからは、不動産M&Aを行う際に売り手側が把握しておくべき主なデメリットを3つ紹介します。
不動産M&Aでは買い手との交渉・株主総会会議・買収監査(デューデリジェンス)など、通常の不動産売却では行わないスキームがあります。
廃業をする手間はかかりませんが、オーナーの同意を得たり買い手企業による監査の手が入ったりと、不動産M&Aとして会社を譲渡する以上はそれなりの手間と時間がかかるのがデメリットです。
不動産M&Aによる不動産の譲渡には、M&Aの性質上、6~12か月ほどかかります。
また、手続きには期限が設けられていることが多いため、計画的にスケジュールを立てたうえでM&A取引に臨みましょう。
売り手にとってM&Aを行う最大のリスクは、「売却先が見つからない」という状況に陥ることです。不動産M&Aでは、不動産だけではなく事業継承も同時に行います。
そのため、譲渡を望んでいても経営状況が思わしくない場合は、なかなか買い手が見つからないといったケースもあります。経営状況が悪い場合は買い手が交渉上は有利となるため、売却価格を安くするよう交渉されることも珍しくありません。
もし、不動産売却の方法としてM&Aを検討されているなら、通常の不動産売却でどれくらい利益が出るか、M&Aを行うメリットがあるかをよく考えて実行に移す必要があります。
また、M&Aに臨む際には簿外債務の解消や経営状況の改善に注力し、企業価値を上げておくことも大切です。
不動産M&Aでは、最終契約の締結前に、買い手企業によるデューデリジェンス(詳細調査)が実施されます。デューデリジェンスでは、不動産の状態や収益性に加え、対象企業の財務状況や契約関係なども含めて総合的に確認されます。
この調査過程で、簿外債務の存在や将来的な修繕リスク、収益性に関する懸念などが判明した場合には、当初提示されていた条件から売却価格が引き下げられる可能性があります。
結果として、売り手の手取り額が想定より少なくなり、場合によっては不動産を単独で売却した場合と同程度、あるいはそれを下回るケースもあります。
このように、不動産M&Aは必ずしも高値での売却が保証されるものではなく、調査結果によって条件が変動する点に注意が必要です。

不動産M&Aは、売り手側だけでなく、買い手側にとっても多くのメリットがあります。通常の不動産売買とは異なり、不動産を保有する会社ごと取得することで、税務面や取得機会の面で有利になるケースがあるためです。
ここからは、不動産M&Aによって買い手側が得られる具体的なメリットについて説明します。
買い手のメリットは、売り手と同様に「節税効果が高い」という点です。
例えば、不動産を購入した場合は登録免許税、不動産取得税、登記申請、不動産登記費用などの処理や費用が発生します。
しかし、不動産取引ではあるものの、あくまで「事業」の譲渡・譲受を行うM&Aでは、登記の変更こそ必要ですが、取得税や登録免許税は発生しません。
そのため、通常の不動産売買で取引するよりも比較的安価に好条件の不動産を入手できるのです。
買い手にとって不動産M&Aは、通常の不動産取引よりも安く不動産を手に入れるチャンスです。
不動産M&Aは売り手の手取り額が増えるというメリットがある一方で、買い手にとっては手間が増えるというデメリットがあります。こうしたデメリットを踏まえたうえで交渉をすれば、売却価格を調整することもできるでしょう。
また、売り手のデメリットでも触れた通り、万が一売り手企業の業績悪化が発覚した場合、あるいは後継者問題など売り手側の都合によって売却を急いでいるケースにおいては、それを理由に売却価格の引き下げ交渉を行うことも可能です。
さらに、通常M&Aでは独占交渉権を求めることができるため、売り手からの同意を得られれば、競合を気にせず取引に注力できるというメリットもあります。
企業が本社ビルや自社ビルなどとして保有している不動産は、売却を前提としていないことが多く、一般の不動産市場には出回りにくい傾向があります。
しかし、市場に出回っていない不動産の中には、立地条件や規模などの面で高い価値を有し、再開発や収益化によってさらなる価値向上が見込める案件も少なくありません。
不動産M&Aを通じて、経営不振や後継者不足などの課題を抱える企業に対して事業承継を含めた提案を行うことで、通常の不動産取引では取得が難しい物件を取得できる可能性があります。
買い手にとっては、取得機会の限られた優良不動産を確保できる点が大きなメリットとなります。
買い手にとって不動産M&Aは、優良な不動産を取得できる可能性がある一方で、通常の不動産取引にはない特有のリスクや負担も伴います。
ここでは、不動産M&Aにおける買い手側の主なデメリットについて解説します。
買い手は不動産だけではなく、売り手企業の事業継承まで行います。つまり、未払賞与、リース債務、あるいは訴訟中の案件など帳簿上に現れない「簿外債務」も含めて継承しなければなりません。
そのために行われるのが、第三者が売り手企業の財務や労務などを監査するデューデリジェンスです。
見えないリスクを引き受けて事業が暗礁に乗り上げるのを防ぐためにも、買い手はデューデリジェンスを徹底して、購入予定の企業に見えないリスクがないかどうかをチェックする必要があります。
しかし、売り手は簿外債務が存在していないことを表明・保証することが多いため、デューデリジェンスや最終契約の後で簿外債務が見つかった場合には、契約違反を追及することができます。
見えないリスクを避けるためにも、デューデリジェンスの徹底はもちろん、簿外債務が存在しないという表明・保証の項目を契約に含めることが大切です。
通常の不動産売買であれば、不動産の評価・調査だけで良いのですが、事業継承も同時に行うため、簿外債務について調べるための財務・法務のデューデリジェンスに労力とコストを割かれてしまうというデメリットがあります。
通常の不動産取引であれば3~6か月程度で完了しますが、不動産M&Aになると6~12か月は見ておくと良いでしょう。
不動産取引を第一の目的に置いている場合は、これらの労力・コストをかけても不動産取得をするメリットがあるかどうかをよく考えたうえで購入希望を伝えるのが得策です。

買い手は会社を丸ごと引き受けるリスクを踏まえたうえで、購入希望企業のリスクを隅々まで把握することが不動産M&A成功のカギとなります。
買い手が注目するべきリスクは、主に次の3つです。
●簿外債務リスク
簿外債務リスクの中には、「確定申告の内容が間違っていた」として修正申告を要するケースもあります。買い取ってから修正申告の必要性に気づくということがないよう、買収前にデューデリジェンスできちんと調査しておき、売り手側で対応するように依頼しておくと良いでしょう。
●不動産そのものが抱えるリスク
買い手は、不動産そのものに問題がないかどうかも調査しておく必要があります。境界トラブルや著しい劣化、あるいは土地汚染など様々な事情で、買収後すぐに多額の修繕費や手続きが発生するケースもあります。こうした事態に陥らないよう、購入予定の不動産そのものにリスクがないか調査しておき、先んじて対策を講じておく必要があります。
●人材流出リスク
引き継いだ後の人材流出リスクにも予め手を打っておくことをおすすめします。M&Aの目的が不動産取引であっても、売り手企業に優秀な人材がいればそのまま引き継ぎたいと思うケースもあります。
しかし、M&Aに反発されることもあるため、私的な理由で離職してしまう可能性も否定できません。人材の継承にも注力するのであれば、あらかじめ面談をして、継承後も会社に残ってくれるかどうか確認を取っておくと安心です。

不動産売買に売買や会社清算を選ぶか、あるいは不動産M&Aにするかによって税金の扱いが大きく変わります。不動産M&Aによる節税効果を期待するのであれば、どのケースでどの税金がかかるかを理解しておきましょう。
ここでは、不動産M&Aによって発生する税金をケース別に解説します。
不動産売買にかかる税金には、譲渡側と譲受側それぞれ次のような税金が課せられます。
| 【譲渡側の税金】 |
|---|
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●法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税 売却で得た利益に対して課税され、税率は合計で約30%~34%です。 ●消費税 土地の取引では非課税ですが、建物には消費税が課せられます。 |
| 【譲受側の税金】 |
|---|
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●不動産取得税 不動産の購入価格ではなく、固定資産評価基準に基づいた不動産評価額に、3%~4%の税率を適用して算出されます。 ●登録免許税 所有権移転登記に必要な税金で、税率は2%です。また、司法書士へ登記手続きを依頼した場合は委託費用もかかります。 ●印紙税 不動産売買契約に必要で、通常は譲渡手と譲受手で折半されます。 |
会社を廃業し解散する場合、資産を処分して換金、債務を返済した後、残った財産を株主に分配します。分配される残余財産は、「譲渡部分」と「配当部分」に分けて所得税が課されます。
残余財産に関連する税金は、次の通りです。
●法人税など
残余財産がプラスであれば、法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税などが課税されます。税率は合計で約30%~34%です。
●消費税
資産の売買には、土地や有価証券など非課税の取引を除き、消費税がかかります。
●所得税
残余財産を株主に分配した際、譲渡部分は一律20%の所得税が、配当部分は株主の年間所得合計額に応じた所得税が課されます。
法人税などで引かれる割合と所得税率を考慮した場合、最終的に残余財産の大部分が税金として徴収され、株主の手取り額は相対的に少なくなる可能性があります。
株式譲渡スキームの不動産M&Aでは、主に譲渡側に課税されます。
●申告分離課税
株式譲渡益に対して、約20%が課税されます。
●消費税・印紙税
不要です。
●所得税
株式譲渡の対価から必要経費を差し引いた金額が株主の譲渡所得となり、所得税がかかります。
株主の譲渡所得にはいくつかの計算方法がありますが、会社の清算を予定している場合は清算後の残余財産額を株主価値とみなすやり方が一般的です。譲渡対価は最終的に交渉で決定され、基本的に残余財産額と同等になる傾向にあります。
譲受側には、M&Aの実施時点で特に課税は発生しません。ただし、後に不動産を売却する場合の売却益には法人税などが課せられます。また、子会社となった売り手企業を解散し清算する際にも、特に課税の影響はありません。
新設分割を利用した不動産M&Aスキームで通常課せられる税金は以下の通りです。
| 【譲渡側の税金】 |
|---|
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●継承する資産や負債の譲渡損益に対する法人税 ●株主へ対価を交付する場合の配当所得に対する所得税 |
| 【譲受側の税金】 |
|---|
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●不動産承継のための不動産取得税 |
ただし、新設分割が組織再編税制の適格要件を満たす場合、上記の税金は非課税となります。適格要件は、新設会社の株式が株主の持分比率に応じて交付される、売り手企業の全株式が支配株主によって占有されていることなどです。
さらに、次の要件を満たせば不動産取得税も課されません。
分割事業の主要な資産が新設会社に移転済みである
新設会社でも事業が継続される
新設会社でも80%以上の従業員が継続雇用される
新設分割に続いて行われる株式譲渡に関しては、株式譲渡のみのスキームと同様の税務処理が行われます。このため、新設分割+株式譲渡スキームの不動産M&Aは、税金面でのメリットを享受しやすいと言えるでしょう。

不動産M&Aは税務面でのメリットが期待できる一方で、取引の内容によっては税務上の扱いが複雑になり、想定外の課税や否認のリスクが生じる場合があります。
特に、株式譲渡の内容や組織再編の方法によっては、不動産売却と同様の重い税負担が課される可能性もあるため注意が必要です。
ここでは、不動産M&Aの実施が税制上困難となる主なケースを解説します。
不動産M&Aでは株式譲渡の形式を取ることが一般的ですが、一定の条件に該当すると、税務上は「短期所有土地の譲渡」とみなされる可能性があります。短期所有土地の譲渡とみなされた場合、通常の株式譲渡よりも倍近くの高い税率が適用されることに注意が必要です。
該当例
譲渡する会社の所有資産の70%以上が、所有期間5年以下の土地やその権利で占められている場合
土地関連資産が70%以上を占める会社の株式を、取得から5年以内に譲渡する場合 など
適用税率
所得税30%+住民税9%
不動産M&Aのために会社分割などの組織再編を行う場合、その目的が税負担の軽減のみであると判断されると、「包括的な租税回避行為防止規定」に基づき否認される可能性があります。
例えば、不動産を切り出して売却するためだけに新設会社へ事業を移転した場合、合理的な事業目的が認められなければ租税回避行為とみなされるおそれがあります。
しかし、不動産を含む事業自体が大規模で、かつ事業上の必要性が明確であれば否認されるリスクは低くなるとされているため、過度に心配する必要はありません。
このように、不動産M&Aでは組織再編の目的や方法が税務上適切であることが求められるため、税務リスクを踏まえたうえで慎重に進めることが大切です。

不動産M&Aを成功させるためには、実際の事例を参考にしながら、どのような目的で実施され、どのような成果につながったのかを理解することが重要です。
ここからは、不動産の取得や事業拡大、バリューアップなどを目的に行われた代表的な不動産M&Aの事例を5つ紹介します。
株式会社アーバネットコーポレーションは、2024年2月に株式会社ケーナインの株式を取得し、子会社化しました。
| 譲渡(売り手)側 | 株式会社ケーナイン |
|---|---|
| 譲受(買い手)側 | 株式会社アーバネットコーポレーション |
| M&Aの目的 |
|
| M&Aのスキーム | 株式譲渡 |
買い手である株式会社アーバネットコーポレーションは、投資用マンションの開発・販売を主力とする企業です。売り手の株式会社ケーナインは、不動産の保有・管理を行っている企業です。
今回のM&Aによって、株式会社アーバネットコーポレーションは都内の優良不動産を取得し、安定収益の確保と開発事業の拡大を図りました。
トーセイ株式会社は、2023年1月に東京都内の不動産を保有する会社の株式を取得し、子会社化しました。
| 譲渡(売り手)側 | 東京都の不動産保有会社 |
|---|---|
| 譲受(買い手)側 | トーセイ株式会社 |
| M&Aの目的 |
|
| M&Aのスキーム | 株式譲渡 |
トーセイ株式会社は、不動産再生や賃貸事業を手がける企業です。今回のM&Aでは、都内の収益物件を保有する会社ごと取得することで、不動産の運用収益を確保するとともに、バリューアップによる収益拡大を目指しています。
トーセイ株式会社は、2021年8月開催の取締役会において、株式会社アイ・カンパニーの全株式および同社子会社の株式を取得し、アイ・カンパニー社ならびにその子会社4社を子会社化することを決議しました。
| 譲渡(売り手)側 | 株式会社アイ・カンパニーほか4社 |
|---|---|
| 譲受(買い手)側 | トーセイ株式会社 |
| M&Aの目的 |
|
| M&Aのスキーム | 株式譲渡 |
トーセイ株式会社は、不動産再生や開発、賃貸などを手がける総合不動産会社です。
アイ・カンパニー社およびその子会社は、東京圏を中心に中古区分マンションの買取・リノベーション・再販事業を主力とし、不動産賃貸や管理事業も展開していました。
今回のM&Aでは、トーセイ株式会社にとって新たな事業領域である中古区分マンションの買取再販事業へ進出することを主な目的としています。対象会社を子会社化することで、既存の不動産再生ノウハウを活用しながら物件の価値向上を図るとともに、取扱商品の拡充や収益機会の拡大も目指しています。
株式会社AVANTIAは、2021年2月にドリームホームグループとの資本提携および業務提携を締結しました。
| 譲渡(売り手)側 | ドリームホームグループ |
|---|---|
| 譲受(買い手)側 | 株式会社AVANTIA |
| M&Aの目的 |
|
| M&Aのスキーム | 資本提携 |
AVANTIAは、戸建分譲や注文住宅、宅地開発などを幅広く手がける不動産会社です。
ドリームホームグループは、京都市を拠点に不動産売買・仲介、注文住宅、リフォームなどを展開しています。
今回の提携は、両社がそれぞれの開発力や販売ノウハウなどの強みを共有・活用することで、供給力の向上や事業成長の加速を目指し、中長期的な企業価値の向上につなげることを狙いとしています。
株式会社ビーロットは、2017年に株式会社ヴィエント・クリエーションを子会社化しました。
| 譲渡(売り手)側 | 株式会社ヴィエント・クリエーション |
|---|---|
| 譲受(買い手)側 | 株式会社ビーロット |
| M&Aの目的 |
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| M&Aのスキーム | 株式譲渡 |
株式会社ビーロットは、不動産投資や不動産再生事業を主力とする企業です。一方の株式会社ヴィエント・クリエーションは収益不動産の保有・運用などを行っていました。
株式会社ビーロットは株式会社ヴィエント・クリエーションを子会社化してから、リノベーションやブランド強化によって不動産価値を高め、その後2019年に売却(イグジット)を実施しています。不動産の価値向上を図ったうえで売却益を確保した、代表的な不動産M&Aの成功事例の1つと言えるでしょう。

不動産M&Aは、売り手・買い手がそれぞれ準備を行ったうえで交渉を進め、最終契約とクロージングへと進みます。不動産だけでなく会社自体を譲渡する取引であるため、通常の不動産売買よりも手続きが多く、段階的に進めることが重要です。
ここでは、売り手企業と買い手企業が最初に行うべきこと、そしてその後の共通の流れに分けて解説します。
●売り手企業がまずすべきこと
売り手となる企業は、まず自社が保有する不動産や会社全体の価値を把握することから始めます。専門家に相談し、財務状況や不動産の評価、売却した場合の手取り額の見込みなどを確認します。
そのうえで、M&アドバイザーと契約を締結し、譲渡条件の整理や資料作成を進めます。これらの準備を整えることで、自社に適した買い手を探すための基盤が整います。
●買い手企業がまずすべきこと
買い手となる企業は、自社の投資目的や取得したい不動産の条件を明確にしたうえで、候補となる企業の探索を行います。候補先が見つかると、秘密保持契約を締結し、対象企業の概要資料をもとに検討を進めます。
その後、より具体的な検討を行うため、M&Aアドバイザーなどとアドバイザリー契約を結び、買収の可否や条件の調整を行います。
売り手・買い手双方の準備が整うと、トップ面談や会社訪問などを通じて相互理解を深めます。買い手が取得の意向を示した後、取引条件の大枠について合意し、基本合意書を締結します。
次に、買い手によるデューデリジェンス(詳細調査)が実施されます。財務・税務・法務・不動産の状況などを調査し、リスクや適正価格を確認します。この結果を踏まえて最終条件を調整し、株式譲渡契約などの最終契約を締結します。
契約締結後は株式の譲渡と代金決済を行い、役員変更や株主名簿の書き換えなどの手続きを進めてクロージングとなります。これにより、不動産M&Aの一連の手続きが完了します。
このように、不動産M&Aは複数の段階を経て進められるため、専門家の支援を受けながら計画的に進めることが大切です。

不動産M&Aを進める際の相談先としては、金融機関や会計事務所、コンサルティング会社など多岐にわたる選択肢があります。各種専門家は、資金計画や税務面の助言などで重要な役割を担います。
しかし、不動産M&Aは通常の企業M&Aとは異なり、不動産の評価や権利関係、税務、不動産市場の動向など、幅広い専門知識が求められます。そのため、相談先を選ぶ際は「M&Aと不動産取引の両方に精通しているか」という観点が重要です。
不動産M&Aの実績が豊富なM&Aアドバイザーであれば、適切なスキームの提案から買い手・売り手のマッチング、手続きのサポートまで一貫した支援が期待できます。不動産M&Aを成功させるためにも、専門性と実績を兼ね備えたM&Aアドバイザーを選ぶと良いでしょう。
不動産M&Aは、不動産を保有する企業の株式取得などを通じて不動産を承継する手法であり、後継者不足への対応や節税、優良不動産の取得など、売り手・買い手双方にいくつかのメリットがあります。
一方で、簿外債務のリスクや税務上の注意点もあるため、適切なスキームの選択と専門的な知識に基づく判断が重要です。
株式会社レコフでは、創業以来の豊富な実績と経験をもとに、不動産M&Aに精通したアドバイザーによる一貫したサポートを提供しております。不動産M&Aをご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。
監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長
澤田 英之(さわだ ひでゆき)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。
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