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クロスボーダーM&A

M&A初級編

2026.06.29更新日:2026.06.29

企業の成長戦略として、M&Aは新たな市場への進出や事業拡大を実現する有効な手段の1つです。近年は国内市場の成熟やグローバル化の進展を背景に、国境を越えた企業買収や資本提携に取り組む企業も増えています。

海外企業とのM&Aを指す「クロスボーダーM&A」は、海外市場への参入や技術・人材の獲得などを目的として活用されています。一方で、言語や文化の違い、法制度への対応など、国内M&Aにはない課題が存在する点も特徴です。

そこで今回は、クロスボーダーM&Aの概要や主な形態・手法、メリットやリスクといった基本情報から、国内企業の事例や成功のポイントまで詳しく紹介します。

目次
 
 

クロスボーダーM&Aとは?

クロスボーダーM&Aとは、 国境を越えて行われるM&A(合併・買収)のことで、売り手企業または買い手企業のいずれか一方、あるいは双方が海外企業である取引 を指します。

海外市場への進出や事業拡大、技術・ノウハウの獲得などを目的として活用されるケースが多く、近年では大企業だけでなく中小企業による実施も増えています。国内M&Aと比べて、成長性の高い市場へ迅速に参入できる点が大きな特徴です。

一方で、言語や文化、法制度の違いに加え、相手国の政治・経済情勢による影響を受ける可能性もあるため、慎重な戦略立案とリスク管理が求められます。

クロスボーダーM&Aの主な3つの形態

クロスボーダーM&Aには複数の形態があり、買い手企業と売り手企業の所在国や取引の目的によって分類されます。それぞれ特徴や活用目的が異なるため、クロスボーダーM&Aを理解するうえでは代表的な形態を把握しておくことが重要です。

ここからは、クロスボーダーM&Aの主な形態である「IN-OUT(インアウト)」「OUT-IN(アウトイン)」「JV(ジョイントベンチャー)」の3つについて説明します。

IN-OUT(インアウト)

IN-OUT(インアウト)とは、 日本企業が買い手となり、海外企業を買収するクロスボーダーM&A です。

海外市場への進出や事業拡大、技術・ノウハウの獲得などを目的として活用されるケースが多く、日本企業によるクロスボーダーM&Aの中でも代表的な形態とされています。

2025年度のIN-OUT型M&A件数は657件(前年比1.2%減)でした。対象国はアメリカが221件で最も多く、シンガポール(43件)、イギリス(41件)、インド(35件)、オーストラリア(33件)が続いています。

(内部リンク:クロスボーダー M&Aマーケット情報)

国内市場の成熟を背景に、日本企業が海外市場へ成長機会を求める動きは今後も継続すると考えられます。

OUT-IN(アウトイン)

OUT-IN(アウトイン)とは、 海外企業が買い手となり、日本企業を買収するクロスボーダーM&A です。海外企業が日本市場への参入を目指す場合や、日本企業の技術力・ブランド力・顧客基盤などに魅力を感じて実施されるケースが多く見られます。

2025年度のOUT-IN型M&A件数は372件で、前年比11.7%増となっています。対象国についてはIN-OUT型と同様にアメリカやシンガポールが比較的多い傾向にありますが、全体の件数はIN-OUT型を下回っています。

(内部リンク:クロスボーダー M&Aマーケット情報)

日本企業にとっては海外資本の導入による成長機会につながる一方で、経営方針や企業文化の変化への対応が求められる場合もあります。

JV(ジョイントベンチャー)

JV(ジョイントベンチャー)とは、 日本企業と海外企業が共同出資して新会社を設立し、共同で事業を運営する形態 です。基本的に企業の買収や統合を伴わないため、厳密にはM&Aというよりも国際的な提携・共同出資の性格が強い形態と言えます。

ジョイントベンチャーでは、双方が保有する技術や販路、人材、ブランド力などの経営資源を持ち寄ることで、単独では実現が難しい事業展開を目指せます。また、海外市場への進出リスクや投資負担を分散できる点もメリットです。

近年は海外企業との協業を通じて新規事業を立ち上げたり、新市場を開拓したりする手段として活用されるケースが増えています。

クロスボーダーM&Aでよく用いられる手法

国境を越えて実施されるクロスボーダーM&Aでは、国内企業同士のM&Aでも広く活用される株式譲渡や事業譲渡に加え、「三角合併」や「LBO(レバレッジド・バイアウト)」といった手法も用いられます。

それぞれ仕組みや特徴が異なるため、目的や状況に応じて適切な手法を選択することが重要です。ここからは、各手法について詳しく説明します。

株式譲渡

株式譲渡とは、 売り手企業の株主が保有する株式を買い手企業へ譲渡し、経営権を移転する手法 です。クロスボーダーM&Aでも最も一般的に利用されており、海外企業の子会社化やグループ化を目的とする際によく採用されます。

株式を取得することで会社全体を引き継げるため、従業員との雇用契約や取引先との契約関係を維持しやすい点がメリットです。一方で、簿外債務や訴訟リスクなど、企業が抱える潜在的なリスクも引き継ぐ可能性があるため、事前のデューデリジェンスが重要です。

事業譲渡

事業譲渡とは、 会社全体ではなく、特定の事業や資産のみを切り出して譲渡する手法 です。株式譲渡とは異なり、売り手企業の経営権は移転せず、必要な事業のみを売買できます。

買い手にとっては、必要な事業や資産だけを取得できるため、不採算事業や不要な負債を引き継ぐリスクを抑えやすい点がメリットです。また、売り手側も主力事業を残しながら一部事業のみを売却できるため、事業再編や選択と集中の手段として活用されています。

ただし、契約や許認可、従業員との雇用契約などを個別に引き継ぐ必要がある場合も多く、株式譲渡と比べて手続きが複雑になりやすい点には注意が必要です。

三角合併

三角合併とは、 買い手企業の子会社を利用して実施する合併手法 です。一般的には、海外企業が日本国内に設立した子会社と日本企業を合併させ、その対価として親会社である海外企業の株式を交付します。

クロスボーダーM&Aでは、外国企業と日本企業が直接合併できないケースへの対応策として活用されることがあります。また、多額の現金を準備せずに買収を実行できる点も特徴です。

一方で、通常の株式譲渡や事業譲渡と比べて手続きが複雑であり、法務・税務面の検討事項も多くなります。そのため、実施にあたっては専門家による十分なサポートが欠かせません。

LBO(レバレッジド・バイアウト)

LBO(レバレッジド・バイアウト/Leveraged Buyout)とは、 買収対象企業の資産や将来の収益力を担保として資金を調達し、その資金で企業買収を行う手法 です。クロスボーダーM&Aだけでなく、国内M&Aでも活用されています。

LBOの最大のメリットは、自己資金が十分でなくても大型の買収を実行しやすい点です。特に投資ファンドによる買収案件などで利用されることが多く、効率的な資金活用が可能になります。

一方で、買収後に対象企業の業績が悪化した場合は、借入金の返済負担が重くなるリスクがあります。そのため、将来的な収益計画やキャッシュフローを慎重に検証したうえで活用することが重要です。

クロスボーダーM&Aのメリット

近年、クロスボーダーM&Aが活発に行われている理由は、国内市場だけでは得られない多くのメリットがあるためです。

ここからは、クロスボーダーM&Aを実施するメリットを3つ紹介します。

海外市場へのスピーディーな開拓・進出につながる

クロスボーダーM&Aの大きなメリットの1つが、海外市場へ迅速に参入できることです。

海外企業を買収することで、現地企業がすでに保有している顧客基盤や販路、ブランド力などを活用できるため、自社単独で海外拠点を立ち上げる場合と比べて効率的に事業を展開できます。

また、市場調査や顧客獲得にかかる時間やコストを抑えながら、新たな市場へ進出しやすくなる点もメリットです。結果として、 新たな収益源の確保や事業規模の拡大を実現しやすくなり、企業の持続的な成長につなげられます。

技術・ノウハウや優秀な人材を獲得できる

クロスボーダーM&Aでは、海外企業が有する技術やノウハウ、人材を取り込める点も大きな魅力です。

特に、自社では保有していない先進技術や専門知識を獲得できれば、製品やサービスの競争力向上につながります。また、高度なスキルを持つ人材や研究開発チームを確保できることで、自社だけでは実現が難しかった事業展開や技術開発を加速させることも可能です。

さらに、異なる知見や企業文化が融合することで、 新製品・新サービスの開発やイノベーション創出にもつながる でしょう。

コスト削減や経営効率化を図れる

クロスボーダーM&Aは、コスト構造の改善や経営効率化にも有効です。

例えば、人件費や生産コストが比較的低い国へ進出することで、製造コストや運営コストの削減が期待できます。また、買収後に拠点や設備、調達機能などを統合することで、スケールメリットを生み出しやすくなります。

加えて、 グループ全体で業務プロセスを最適化できれば、生産性向上や管理コストの削減にもつながる でしょう。このように、経営資源を効率的に活用できる点もクロスボーダーM&Aのメリットの1つです。

クロスボーダーM&Aのリスク

クロスボーダーM&Aには多くのメリットがある一方で、国内企業同士のM&Aと比べて検討すべき事項が多く、手続きも複雑になりやすい傾向があります。また、海外企業との取引ならではのリスクも存在するため、事前に十分な調査と対策を講じることが重要です。

ここからは、クロスボーダーM&Aを実施する際におさえておきたい3つのリスクを紹介します。

言語や文化の違いによって統合が難航する可能性がある

クロスボーダーM&Aでは、言語の違いだけでなく、企業文化や価値観、商習慣、労働慣行などの違いにも対応しなければなりません。

例えば、意思決定の進め方や組織運営の考え方が大きく異なる場合、買収後のコミュニケーションが円滑に進まない可能性があります。また、経営方針や評価制度の変更に対して従業員が不安や不満を抱くことで、組織内の混乱や人材流出につながるケースもあります。

そのため、 クロスボーダーM&AではPMI(経営統合)の計画を慎重に策定し、相互理解を深めながら統合を進めることが重要 です。

法律・会計制度・規制の違いへの対応が求められる

クロスボーダーM&Aでは、進出先の法律や会計基準、税制、労働関連法規などへの対応が必要となります。

国によって制度や規制の内容は大きく異なるため、国内M&Aと比べて手続きが複雑になりやすい点が特徴です。また、業種によっては外資規制や許認可制度が設けられている場合もあり、事前に確認しておかなければ取引が進められないケースもあります。

さらに、現地法令への理解不足や手続きの不備によって、行政指導や訴訟などのトラブルが発生する可能性もあるため、 専門家の支援を受けながら慎重に進めることが重要 です。

政治・経済情勢の変化による影響を受ける可能性がある

クロスボーダーM&Aでは、進出先の政治・経済情勢による影響を受ける可能性があります。

例えば、景気悪化による需要の減少や為替相場の大幅な変動が発生すると、当初想定していた収益計画を達成できなくなる場合があります。また、政権交代や法改正、外資規制の強化などによって事業環境が大きく変化する可能性も否定できません。

こうしたカントリーリスクは企業だけではコントロールが難しいため、 事前に十分な情報収集やリスク分析を行い、複数のシナリオを想定したうえで戦略を立案することが大切 です。

国内企業におけるクロスボーダーM&Aの主な事例3選

国内では、クロスボーダーM&Aを活用して海外市場への進出や事業領域の拡大を実現している企業が数多く存在します。実際の事例を知ることで、クロスボーダーM&Aがどのような目的で行われ、どのような成果につながっているのかをイメージしやすくなるでしょう。

ここからは、国内企業におけるクロスボーダーM&Aの主な成功事例を3つ紹介します。

株式会社ZOZO×LYST LTD

株式会社ZOZOは、2025年4月にイギリスのファッションショッピングプラットフォーム運営会社であるLYST LTDの全株式を取得し、完全子会社化することを決定しました。

譲渡(売り手)側 LYST LTD
譲受(買い手)側 株式会社ZOZO
M&Aの目的
  • グローバル市場への展開強化
  • 海外事業の成長加速
M&Aのスキーム 株式譲渡

株式会社ZOZOは、日本最大級のファッションECサイト「ZOZOTOWN」を運営する国内有数のファッションテック企業です。

LYST LTDは、欧米を中心に展開する世界的なファッションショッピングプラットフォーム「Lyst」を運営しています。

このM&Aは、 LYST LTDがもつグローバルな顧客基盤やファッションデータ、AI技術などを取り込みながら海外事業の拡大を目指すために実施されました。

株式会社電通グループ×Shift7 Digital, LLC.

株式会社電通グループは、2023年3月に米国のB2Bエクスペリエンス&コマース企業であるShift7 Digital, LLC.の全株式を取得し、子会社化しました。

譲渡(売り手)側 Shift7 Digital, LLC.
譲受(買い手)側 株式会社電通グループ
M&Aの目的
  • CXM(顧客体験マネジメント)領域の強化
  • デジタルサービスの拡充
M&Aのスキーム 株式譲渡

株式会社電通グループは広告・マーケティング領域を中心にグローバル展開する日本最大級の広告会社グループです。
Shift7 Digital, LLC.は、メーカーや流通業向けにデジタル体験の最適化を支援する米国企業として知られています。
このM&Aは、Shift7 Digital, LLC.がもつ専門知識や人材を取り込むことで、 「グループ全体のデジタルサービス強化」と「グローバル市場での競争力向上」につなげるために実施されました。

株式会社リクルートホールディングス×Indeed, Inc.

株式会社リクルートホールディングスは、2012年10月に米国の求人検索エンジン運営会社Indeed, Inc.の全株式を取得し、完全子会社化しています。

譲渡(売り手)側 Indeed, Inc.
譲受(買い手)側 株式会社リクルートホールディングス
M&Aの目的
  • グローバルな人材サービス企業への成長
  • オンラインHR領域(後のHRテクノロジー事業)への本格参入
M&Aのスキーム 株式譲渡

株式会社リクルートホールディングスは、人材サービスや販促メディア事業を展開する日本有数の企業です。一方のIndeed, Inc.は、世界中の求人情報を集約する求人検索エンジンとして急成長していた米国企業でした。
収額は約10億ドルにのぼり、日本企業による大型クロスボーダーM&Aとして大きな注目を集めました。現在でも、 クロスボーダーM&Aを通じて企業価値の向上とグローバル展開の加速を実現した代表的な成功事例の1つとして知られています。

クロスボーダーM&Aを成功に導くためのポイント

クロスボーダーM&Aの成功率を高めるためには、下記のポイントをおさえておきましょう。

●現地の情報収集とリスク分析を徹底する

クロスボーダーM&Aでは、対象企業の財務状況や事業内容だけでなく、進出先の市場環境、法制度、商習慣、政治・経済情勢なども調査する必要があります。現地の規制変更や為替変動、景気悪化などによって、買収後の事業計画が大きく変わる可能性もあるためです。

事前に複数のリスクシナリオを想定し、対応策を検討しておくことが重要です。

●ブレークアップフィーを確認する

ブレークアップフィーとは、M&A契約が一定の理由で成立しなかった場合に、一方の当事者が相手方へ支払う違約金のような費用です。

クロスボーダーM&Aでは、各国の制度や契約慣行が異なるため、交渉の途中で取引が中止になった場合の費用負担や条件を事前に確認しておく必要があります。予期せぬコストやトラブルを避けるためにも、契約内容を慎重に確認しましょう。

●クロスボーダーM&Aに強いM&Aアドバイザーに相談する

クロスボーダーM&Aでは、相手国の法制度や税制、商習慣、交渉慣行などに関する専門的な知識が求められます。自社だけで対応するのは難しい場面も多いため、 海外案件に詳しいM&Aアドバイザーや専門家に相談することが有効です。

現地情報の収集や候補企業の選定、条件交渉、PMIまで支援を受けることで、M&Aの成功可能性を高めやすくなります。

まとめ

クロスボーダーM&Aは、海外市場への進出や事業拡大、技術・人材の獲得などを実現する有効な経営戦略の1つです。

一方で、言語や文化の違い、法制度への対応、カントリーリスクなど、国内M&Aにはない課題も存在します。そのため、形態や手法ごとの特徴を理解したうえで、十分な情報収集やリスク分析を行いながら進めることが重要です。

1987年創業の老舗M&A会社である株式会社レコフは、クロスボーダーM&Aを含む多様な案件に対応しており、業界に精通したアドバイザーが戦略立案から成約までサポートしています。海外企業とのM&Aを検討している方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長

澤田 英之(さわだ ひでゆき)

金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。

 
 
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