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M&A初級編
スタートアップは、革新的なアイデアや技術を武器に、短期間での成長を目指す企業形態として注目を集めています。一方で、資金調達や人材確保、事業拡大といった課題に直面するケースも少なくありません。こうした成長過程において、重要な選択肢の1つとなるのが「M&A」です。
スタートアップにおけるM&Aは、IPOと並ぶ代表的なイグジット(出口戦略)であり、売り手・買い手双方にとって大きなメリットが期待できます。しかしその反面、企業価値評価や統合後の運営など、慎重に検討すべきデメリットやリスクも存在することに注意が必要です。
そこで今回は、スタートアップM&Aの基礎知識から、立場別のメリット・デメリット、成功させるためのポイントまでを分かりやすく解説します。スタートアップのM&Aを検討している方は、ぜひ参考にしてください。
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スタートアップとは、新しい技術やビジネスモデルを通じて、短期間での急成長や社会変革を目指す企業のことです。
スタートアップの代表例としては、GoogleやAmazon、Uberなどが挙げられます。もともとはアメリカのシリコンバレーで使われ始めた言葉で、現在では日本でも広く知られるようになっています。
また、スタートアップと聞いて「起業して間もない会社」「立ち上げたばかりの事業」とイメージする人も多くいますが、新たなビジネスモデルを構築していない・短期間での成長を目指していないのであれば、スタートアップではありません。
さらに、スタートアップは「ベンチャー」とも混同されやすいものの、ベンチャーは既存のビジネスモデルをもとに新たなサービスを展開する、主に成長過程にある小〜中規模の企業を指すのが一般的です。このように、両者にはビジネスモデルの新規性や成長スピード、出口戦略に違いがあります。

M&Aとは、「Mergers(合併) & Acquisitions(買収)」の略称で、企業同士が統合したり、一方の企業が他方の企業を取得したりする経営手法を指します。事業や組織を引き継ぐことで、単独では実現が難しい成長や競争力の強化を図れる点が特徴です。
一般的な企業にとってのM&Aの目的は、市場シェアの拡大や新規事業への参入、事業承継、経営資源の効率化などが挙げられます。特に近年は、人材や技術を迅速に獲得する手段として活用されるケースも増えています。
一方、スタートアップにとってのM&Aは、IPOと並ぶ代表的なイグジット(出口戦略)の1つです。事業価値を評価してもらい、短期間で資金回収を実現できるほか、大企業の経営基盤やネットワークを活用して事業をさらに成長させる目的で選択されることもあります。
前述の通り、スタートアップにとってのイグジットにはM&AのほかにIPO(新規株式公開)もあります。IPOとは、自社株式を証券取引所に上場し、投資家から広く資金を調達する仕組みのことで、上場後も独立した企業として経営を続けられる点が特徴です。
スタートアップにおけるM&AとIPOの大きな違いは、経営の独立性と実現までのスピードです。IPOは準備に時間とコストがかかる一方、M&Aは比較的短期間でイグジットが可能となります。
また、M&Aでは買い手企業の傘下に入る代わりに、事業成長を加速させられる点が特徴と言えるでしょう。

近年、日本におけるスタートアップのM&A件数は着実に増加しています。経済産業省が2024年6月に公表した「令和5年度産業経済研究委託事業(スタートアップの成長のための調査)」によると、2023年度のスタートアップM&A件数は118件にのぼりました。
(出典:経済産業省「令和5年度産業経済研究委託事業(スタートアップの成長のための調査)」/
https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/r5reportforstartupgrowth/r5reportforstartupgrowth_MA.pdf)
なお、同省が2021年3月に公表した「大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書」では、2017年が86件、2018年が75件、2019年が89件とされていることから、ここ数年でM&A件数が大きく伸びていることが分かります。
(出典:経済産業省「令和2年度産業経済研究委託事業 大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書」/
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2020FY/000058.pdf)
スタートアップのM&Aが増加する背景には、市場環境の変化や政府による政策支援など、複数の要因が重なっています。
以下では、スタートアップのM&Aが増加している主な理由を詳しく紹介します。
近年は、急速な技術革新やデジタル化の進展により、市場ニーズが大きく多様化しています。DXの加速によって業務のオンライン化・自動化ニーズが高まる一方、業界や業務内容に特化したサービスなど、ニーズの細分化も進んでいます。
こうした環境下では、大企業が自社のリソースだけで新たな技術やサービスを迅速に開発し、すべてのニーズに対応することは容易ではありません。その点、特定分野に強みをもつスタートアップは、柔軟かつスピーディーに市場の変化へ対応しやすいという特徴があります。
そのため、「ゼロから新規事業を立ち上げるよりも、すでに技術やビジネスモデルを確立しているスタートアップをM&Aで取り込むほうが効率的」という考え方が広がり、大企業側のスタートアップM&A需要が高まっています。
スタートアップのM&A増加を後押ししている要因として、政府主導の政策も挙げられます。
日本政府は、2027年度までにスタートアップへの投資額を10兆円規模に拡大することを目標に掲げ、2022年に「スタートアップ育成5か年計画」を策定しました。
スタートアップ育成5か年計画では、下記3つの柱を軸に、スタートアップを取り巻く環境整備を進めています。
第一の柱
スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築
第二の柱
資金供給の強化と出口戦略の多様化
第三の柱
オープンイノベーションの推進
特に注目すべき点は、従来の「スタートアップの成功=IPO」という価値観から脱却し、M&Aも正当な成長・出口戦略として位置づけたことです。
この価値観の転換により、M&Aを前提とした事業成長を描く起業家や投資家が増え、結果としてスタートアップのM&A件数増加につながっていると言えます。

M&Aの手法(スキーム)には、株式譲渡や株式交換、株式移転などさまざまな種類がありますが、スタートアップのM&Aでは、取引の分かりやすさやスピード感が重視される傾向にあります。
下記は、スタートアップのM&Aで用いられる代表的な3つの手法です。
●株式譲渡
株式譲渡とは、株主が保有する株式を買い手企業へ譲渡し、経営権を移転する手法です。
会社そのものを引き継ぐ形となるため、契約関係や従業員を原則としてそのまま維持できます。手続きが比較的シンプルで、短期間で実行しやすい点がメリットです。
一方、簿外債務などを含めて引き継ぐ可能性があり、買い手側には慎重なデューデリジェンスが求められます。
●事業譲渡
事業譲渡とは、会社全体ではなく、特定の事業や資産のみを切り出して譲渡する手法です。
買い手は必要な事業だけを取得できるため、リスクを限定しやすい点がメリットと言えます。一方で、契約や許認可の再締結が必要になるケースが多く、手続きが煩雑になりやすい点はデメリットです。
●合併
合併とは、複数の企業を1つに統合する手法で、吸収合併や新設合併などがあります。
事業や組織を一体化できるため、高いシナジー効果が期待できますが、統合作業に時間と労力がかかりやすい点が特徴です。そのため、スタートアップのM&Aにおいては、株式譲渡と比べて採用されるケースは限られています。

スタートアップのM&Aは、売り手(譲渡側)・買い手(譲受側)の双方にメリットとデメリットがあります。売り手にとっては、短期間でのイグジットや事業成長の加速といった魅力がある一方、条件面や社内外への影響など注意すべき点も存在します。
まずは、スタートアップが売り手となる場合の主なメリット・デメリットを詳しく紹介します。
スタートアップにとってM&Aは、IPOと比べて短期間でイグジットを実現しやすい点が大きなメリットです。
IPOには、厳格な審査基準への対応や内部管理体制の整備など、長期にわたる準備が必要となります。一方、M&Aであれば、買い手との条件が合致すれば比較的スピーディーに成立する可能性があります。
早期に資金回収を図りたい創業者や投資家にとって、M&Aは有力な選択肢と言えるでしょう。
M&Aによって大企業や成長企業の傘下に入ることで、スタートアップ単独では難しかった事業拡大を一気に進められる可能性があります。
資金力や販売チャネル、ブランド力、人材といった経営資源を活用できるため、プロダクトの開発や市場展開を加速させやすくなるでしょう。
単なる売却にとどまらず、事業をさらに成長させる戦略としてM&Aを選択するケースも少なくありません。
スタートアップのM&Aでは、帳簿上の資産や直近の収益だけでなく、技術力やプロダクトの独自性、将来の成長性、買い手企業とのシナジーといった要素も含めて評価されます。
結果として、帳簿価値を超えた価格、いわゆる「のれん」を含めた形で純資産を大きく上回る金額での売却も期待できるでしょう。
ただし、のれんは必ず付くものではなく、買い手が価値を感じなければ評価に反映されない点には注意が必要です。
スタートアップは創業から間もない企業が多く、M&AにおいてはIPOほど短期的な収益性や黒字・赤字が厳しく問われない傾向があります。現時点で業績が十分でなくても、技術力や将来性、大企業とのシナジーが評価され、売却が成立する可能性はあります。
ただし、法務・財務面の最低限の健全性は当然求められるため、経営状態がまったく問われないわけではありません。理想通りの条件や金額にならないケースも十分に考えられることを覚えておきましょう。
M&Aによって経営主体が変わることで、取引先や従業員が将来に不安を感じ、反発が生じる可能性があります。
特にスタートアップは、創業者の理念や企業文化への共感を軸に成り立っている場合も多く、売却に対する心理的な抵抗が起こりやすい点には注意が必要です。
取引先や従業員との信頼関係を悪化させないためにも、事前に十分な説明やコミュニケーションを行っておきましょう。

スタートアップのM&Aは、売り手だけでなく買い手にとっても多くのメリットがあります。
特に大企業や成長企業にとっては、自社だけでは得にくい技術や人材、事業機会を効率的に取り込める点が魅力となる一方で、買収後の統合やリスク管理といった課題も存在します。
ここからは、スタートアップのM&Aにおける買い手側の主なメリット・デメリットを説明します。
スタートアップをM&Aで取り込むことで、自社の既存事業と組み合わせたシナジー効果が期待できます。
例えば、スタートアップの技術やプロダクトを自社の販売網や顧客基盤に展開することで、収益機会の拡大につながるほか、研究開発力やノウハウも補完できるでしょう。
単独では生み出せなかった新たな価値創出を実現できる可能性がある点は、買い手側にとっての非常に大きな魅力と言えます。
新規事業をゼロから立ち上げる場合、時間やコスト、失敗リスクが大きくなりがちです。一方、すでに事業実績やプロダクトを持つスタートアップを買収すれば、開発期間を短縮し、市場参入をスピーディーに進められます。
特に変化の激しい分野では、M&Aによって参入ハードルを下げられる点が、買い手にとっての魅力となるでしょう。
スタートアップは、既存の枠にとらわれない発想や柔軟な組織文化を強みとしています。M&Aを通じて、こうした斬新なアイデアやスピード感を自社に取り込むことで、組織全体の活性化につながる可能性もあるでしょう。
実際に、イノベーション創出を目的として、あえて小規模なスタートアップを買収するケースも増えています。
M&A成立後には、経営体制や業務プロセス、企業文化を統合するPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)が不可欠です。
特にスタートアップと大企業では、意思決定のスピードや働き方に大きな違いがあるため、統合がうまく進まないケースも少なくありません。
PMIが不十分だと、期待していたシナジーが発揮されないリスクがあることに注意が必要です。
スタートアップは事業フェーズが若いため、財務体制や内部管理が十分に整っていない場合があります。結果として、M&A後に想定外の債務や法的リスクが発覚する可能性も否定できません。
買収後の債務発覚リスクを抑えるためには、買収前のデューデリジェンスを徹底し、リスクを見極めることが重要です。

スタートアップのM&Aを成功させるためには、単に売却や買収を進めるだけでなく、将来の事業展開や組織運営まで見据えた判断が欠かせません。
売り手・買い手の双方が納得できる形でM&Aを実現するためにも、下記のポイントをおさえておきましょう。
スタートアップのM&Aは、経営陣だけで完結するものではありません。事業やカルチャーとの相性、タイミングの見極め、従業員への丁寧な説明など、総合的な判断が成功を左右します。
しかし、これらを自社だけで進めるのは難しい場合も多いため、支援実績が豊富なM&Aアドバイザーなどの専門家に相談することも有効な選択肢と言えるでしょう。
スタートアップのM&Aは、IPOと並ぶ重要なイグジット戦略として注目されています。売り手・買い手の双方にとって事業成長を加速させる有効な手段となっている一方で、企業価値評価やPMI、社内外への影響など、慎重に検討すべきポイントも少なくありません。
スタートアップのM&Aを成功させるためには、M&Aの専門家に相談することも有効です。
株式会社レコフは、創業1987年の老舗M&A助言会社として、長年の実績と業界に精通したアドバイザーによる支援を行っています。着手金無料で相談できるため、スタートアップのM&Aを検討している場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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事業承継・譲渡売却は監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長
澤田 英之(さわだ ひでゆき)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。
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