Useful

アパレル業界のM&A動向

業界別M&A

2025.04.30更新日:2025.04.30

近年、アパレル業界を取り巻く環境は大きく変化していて、M&Aによる業界再編の動きも活発化しています。アパレル関連企業の経営者でM&Aを検討している方も多いのではないでしょうか。

アパレル業界のM&Aを実施する際は、業界の特色やM&A動向などを理解し、自社にとってメリットのあるM&A先を選ぶことが重要です。

アパレル業界のM&Aを目指す方に向けて、アパレル業界の特色・市場規模からM&A動向、M&Aのメリット・デメリットと主なM&A事例までを詳しく解説します。

目次
 
 

アパレル業界とは?

アパレル業界とは、衣料品を意味する「アパレル」の企画・製造・販売を行う企業で構成される業界です。
アパレル業界とひとくちに言っても、業界には様々な企業タイプが存在します。流通構造も段階的に分けられており、企業タイプによって属する位置が異なるため、自社の位置付けを正しく把握しましょう。

アパレル業界の主な企業タイプ

アパレル業界の主な企業タイプは、下記の7種類に分類されます。

アパレルメーカー アパレル商品の企画・製造や、小売店への卸売・流通を行う企業です。
各種製造業者 アパレル商品に使用する糸やテキスタイルの製造、染色・加工・縫製などを行います。
小売店 アパレルメーカーが製造した商品を仕入れ、消費者に販売する企業です。百貨店・量販店やメーカー専門店などがあります。
繊維商社 アパレル商品に使用する原材料・生地の買い付けや輸出入などを行います。
アパレル物流業者 アパレル商品や生地などの物流を専門的に管理します。
SPA企業 自社が製造したアパレル商品を、自社店舗チェーンやECサイトなどで販売する企業です。
D2C企業 アパレル商品を製造し、自社ECサイトで販売する企業です。

アパレルメーカーからアパレル物流業者までは水平的な分業を行っています。
対して、SPA企業とD2C企業は企画・製造・販売を自社一貫体制で行う点が特徴です。

アパレル業界の流通構造

アパレル業界の流通構造は、川上・川中・川下の3段階に分類されます。

流通段階概要主な企業タイプ
川上 アパレル商品の原材料や生地の生産を行います。
  • 各種製造業者
川中 川上で生産された素材を使用し、アパレル商品の企画・製造を行います。
  • アパレルメーカー
  • 繊維商社
川下 川中が製造したアパレル商品を消費者へと販売します。
  • アパレル物流業者
  • 小売店

アパレル業界の流通は川上の原材料生産から始まり、川中での商品製造を経て、川下で消費者へと販売される仕組みです。

アパレル業界の特色

アパレル業界は季節やトレンドとの関係性が強く、一般消費者のニーズ変化の影響も受けやすい業界と言えます。アパレル業界の現状を把握するには、どのような要素が経営を左右するかを把握することが大切です。

アパレル業界の特色を3つのポイントに分けて解説します。

季節とトレンドに大きく左右される

衣料品を扱うアパレル業界では、商品の売上が季節とトレンドに大きく左右されます。季節物やトレンドの衣料品は、該当する季節やトレンドの時期であれば高い売上が見込めるものの、季節やトレンドを外れた場合には損失に繋がる可能性があるでしょう。

また、季節物の衣料品は夏服よりも冬服の方が販売単価が高い傾向にあります。消費者の購買需要を喚起するためにも、プロパー(正規価格)・セール(割引価格)などの販売スタイルを使い分けることが重要です。

在庫リスクが高い

アパレル業界は基本的に消費者需要が高い商品種類を集中的に販売する戦略を取っており、在庫リスクが高いことが特徴です。特に季節物・トレンドの商品はライフサイクルが短く、需要が減退すると多くの在庫が発生するケースもあります。

商品のライフサイクルが衰退期に入りかけたときには、該当商品の生産や発注を縮小して在庫の発生を少なく抑えなければなりません。発生した在庫はセール・アウトレットなどで販売し、倉庫を圧迫し続ける場合は廃棄する必要もあるでしょう。

消費者の低価格志向が強まっている

近年は消費者の低価格志向が強まっており、高級な衣料品の購入需要は低下傾向にあります。大手アパレルも低価格帯の商品を製造・販売する状況になっています。

従来、低価格商品には低品質のイメージがつきまとっていたものの、現在では低価格でありながら高い品質・機能性・デザインを持つ商品も登場しています。品質のために高級な衣料品をあえて購入する必要性が低くなったことが、低価格志向が強まっている主な要因です。

また、大規模ECサイトの登場により、海外の安価なアパレル製品も日本国内で購入できるようになりました。日本のアパレル業界では、海外のアパレル企業との価格競争も主要な課題となっています。

【流通構造別】アパレル業界の市場規模|業界を取り巻く環境

アパレル業界の市場規模は、流通構造の位置によって異なります。

川中・川下にあたるアパレルメーカー・小売店における直近5年間の市場規模は、下記の通りとなっていました。

2019年 9兆1,732億円
2020年 7兆5,158億円
2021年 7兆6,105億円
2022年 8兆0,591億円
2023年 8兆3,564億円

(出典:株式会社矢野経済研究所「国内アパレル市場に関する調査を実施(2024年)」https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3660 )

2019年には9兆円以上あった市場規模は、コロナ禍の影響により2020年・2021年には7兆5,000億円程度にまで落ち込みました。しかし、2022年以降は8兆円以上に伸びており、回復基調にあります。

一方、川上にあたる繊維工業では、近年の製造品出荷額等は3兆5,000億~4兆円の間でほぼ横這いか緩やかな減少傾向です。事業所数は2005年の23,082件から2019年には10,586件と半分以下になっており、市場規模の減少が大きく影響していると考えられます。

(出典:経済産業省「2030年に向けた繊維産業の展望」https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/textile_industry/pdf/20220518_2.pdf )

以下では、アパレル業界を取り巻く環境がどのように変化しているかを解説します。

SPA(製造小売業)の台頭

アパレル業界では百貨店・量販店などの小売店で売上が低迷しており、一方でSPA(製造小売業)企業が台頭しています。

SPA企業はアパレル商品の企画・製造から小売までを1つの企業で行う事業形態であり、中間業者を介さないため大幅なコストカットが可能です。商品の在庫管理や需給バランスを社内で管理できるため、効率的な製造・販売が実現可能となります。

SPA企業は、流行を取り入れつつ低価格で大量生産可能な「ファストファッション」の販売に適しており、低価格を好む近年の消費者志向にも対応できています。

EC化・D2C事業の導入拡大

アパレル業界では、インターネット上で商品販売を行うEC化や、自社ECサイトで消費者に直接販売をするD2C事業の導入が拡大しています。EC化・D2C事業の導入は販路拡大に繋がり、実店舗に訪問しない消費者も顧客にできる点が魅力です。

ただし、アパレル業界のEC化率は2023年時点で約22.88%であり、EC化の余地はまだ十分にあります。

(出典:経済産業省「繊維産業の構造変化と 政策課題について」https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/textile_industry/pdf/001_06_00.pdf )

アパレル商品の売上が低迷している百貨店においてもECの導入は実施されており、EC化・D2C事業の導入は今後さらに加速すると考えられています。

競争力を失った卸売業者の淘汰

アパレル業界の川下にあたる小売店は従来、卸売業者と提携して様々なアパレルメーカーの商品を仕入れ、消費者需要に応えられる品揃えを実現していました。 しかし、近年では大手アパレルメーカーが小売店に直接販売を行うという構造も見られます。企画・製造から小売までを自社一貫体制で行うSPA企業や、EC販売を主要事業とするD2C企業も登場しており、競争力を失った卸売業者は淘汰されている状況です。

アパレル業界におけるM&A動向

大きな転換期を迎えているアパレル業界では、M&Aが頻繁に実施されています。M&Aは、企業の体制や事業ポートフォリオを短期間で変えられる取り組みであるためです。

アパレル業界のM&A動向としては、下記のような目的を実現するためのM&Aが多い傾向にあります。

●垂直統合を目的としたM&A

商品製造をするメーカーと商社・小売店などが垂直的に統合するM&Aです。統合後はSPA企業となり、商品流通を自社内で完結できるようになります。

●EC・D2C事業の強化や開拓を目的としたM&A

アパレル業界ではEC・D2C事業の導入が進んでいるものの、資本力が小さい中小企業が単独で行うことは難しいと言えます。中小企業が大手アパレル企業の傘下に入ることにより、大手の資本力を活用してEC・D2C事業の強化や開拓を行うことが可能です。

●デジタルマーケティングの推進を目的としたM&A

EC・D2C事業を強化するには、インターネットを介して顧客関係を構築するデジタルマーケティングの導入が欠かせません。デジタルマーケティングを得意とする大手企業との提携や、IT企業などによる異業種M&Aが見られます。

●経営の安定化を目的とした異業種M&A

アパレル企業が経営の安定化を目的として、資本力や顧客ネットワークを持つ異業種とM&Aを行うケースも多い傾向です。近年はIT企業や総合商社などがアパレル業界に進出する動きも目立っています。

【アパレル業界】M&Aによる「譲渡(売り手)側」のメリット

M&Aを行う企業の立場には売り手の譲渡側と買い手の譲受側があり、立場の違いによって得られるメリットが異なります。 会社や事業を売却する譲渡側の企業は、売却のメリットによって自社が抱えている課題を解決できるかどうかを検討しましょう。

M&Aによる譲渡側の代表的なメリットを3つ紹介します。

経営基盤の安定化に繋がる

M&Aによって大手企業の傘下に入れば、大手企業の資本力やブランド力によって経営を立て直せます。大手企業が持つ顧客基盤や流通ネットワークも活用できるようになり、経営基盤の安定化に繋がる点がメリットです。 大手のアパレル企業は早い段階でEC・D2D事業に取り組んでいるところが多く、そのような企業の傘下に入れば自社のEC化も目指せるでしょう。

後継者不足問題を解決できる

日本の企業は多くが後継者問題を抱えており、アパレル業界においても後継者不足は深刻な問題です。後継者不在の企業では経営者の引退によって廃業危機となり、従業員の解雇や負債の返済など別の問題にも影響します。

M&Aで会社を売却すると、譲受企業の中から経営者となる人材を招くことができます。従業員の雇用維持や個人保証・担保の解消など、後継者不足にか関わる問題も解決することが可能です。

創業者利益を確保できる

M&Aスキームの一種である株式譲渡で会社を売却すれば、経営者は創業者利益を確保できます。創業者利益は会社売却の対価であり、経営者が自由に使える資金です。経営者自身の老後資金や、新しい事業の展開などに活用できます。

また、事業譲渡で会社の一部事業を売却した場合は、売却益は会社が獲得します。会社は売却益を活用して借入金の返済に充てたり、主力となる事業の強化資金に使ったりすることができるでしょう。

【アパレル業界】M&Aによる「譲受(買い手)側」のメリット

M&Aで会社や事業を買収する譲受企業は、主に事業規模の拡大や人材確保等のメリットを得られます。アパレル企業の買収を検討する際は、自社がM&Aをする目的の達成ができるかを考えることが重要です。

アパレル業界のM&Aにおいて、譲受企業が得られる2つのメリットを解説します。

事業の拡大・多角化が可能となる

M&Aで会社や事業を買収することで、自社事業の拡大・多角化が可能となります。 例として、アパレルメーカーが繊維工業を買収した場合、アパレル原材料の生産工場や人員を獲得できます。譲渡側の繊維工業が機能性の高い繊維製品を生産できる企業であれば、自社の商品開発に活用して魅力的な商品ラインナップを消費者に提供できるでしょう。

また、IT企業がアパレルメーカーを買収するケースであれば、アパレル事業参入に必要なリソースを確保できます。流通ルートも確保できるため、スムーズな事業参入が実現できる方法です。

優秀な人材を即座に確保できる

アパレル事業の売上を伸ばすためには、事業規模を拡大させるとともに、事業を支える人材が必要です。M&Aで買収することで、譲渡企業が雇用していた優秀な人材を即座に確保できます。

M&Aによる人材確保は、人材の教育が基本的に不要であることが大きなメリットです。教育にかかる費用・時間といったコストを軽減でき、M&Aの目的である事業拡大や新規事業参入の効果を素早く得られるでしょう。

アパレル業界における主なM&A事例4選

アパレル業界のM&Aを成功させるためには、M&Aの事例を参考にすることも有効です。M&Aの目的やスキームは多岐にわたるため、自社がどのようなM&Aを実施したいかを検討しつつ、事例を参考にすると良いでしょう。

最後に、アパレル事業における主なM&A事例を4つご紹介します。

ワールド×ナルミヤ・インターナショナル

ワールドは2022年2月、ナルミヤ・インターナショナルの株式譲渡によって連結子会社化しました。

譲渡(売り手)側 ナルミヤ・インターナショナル
譲受(買い手)側 ワールド
M&Aの目的
  • 子ども服分野の消費者ニーズへの対応
  • 生産・物流・販売といった事業基盤の活用
M&Aのスキーム 株式譲渡

譲受側のワールドは、多様なブランド展開を行っている総合アパレル企業です。 一方、譲渡側のナルミヤ・インターナショナルは子ども服の企画・販売に強みを持っている企業です。

本M&Aでワールドはシナジー効果の創出を目指し、ナルミヤ・インターナショナルはワールドが持つ事業基盤の活用を期待しています。

C.R.E.A.M×ジャパンイマジネーション

C.R.E.A.Mは、ジャパンイマジネーションが保有する2つのレディースアパレルブランドを譲受しました。

譲渡(売り手)側 ジャパンイマジネーション
譲受(買い手)側 C.R.E.A.M
M&Aの目的
  • 新規分野におけるブランド展開
M&Aのスキーム 事業譲渡

C.R.E.A.Mは「DressLab」というレディースアパレルブランドを保有し、結婚式などオケージョン向けアパレルの企画・製造・販売を行う企業です。 一方のジャパンイマジネーションは、女性向けカジュアルブランドでの企画・製造・販売・卸などを行う企業です。 C.R.E.A.Mは、事業成長のためにオケージョン以外の分野にもブランド展開をする必要性が高まったことにより、2つのブランドの事業譲受を実施しました。

TSIホールディングス×3ミニッツ

TSIホールディングスは2020年8月、3ミニッツが保有するアパレル事業「ETRÉ TOKYO」の事業譲受を行いました。

譲渡(売り手)側 3ミニッツ
譲受(買い手)側 TSIホールディングス
M&Aの目的
  • 新たな顧客層の獲得
  • D2C市場における事業成長
  • 「ETRÉ TOKYO」事業の成長スピードの加速
M&Aのスキーム 事業譲渡

TSIホールディングスはアパレルの企画・製造・販売などをはじめ、店舗設計や飲食店経営など多角的な事業展開を行っています。 一方の3ミニッツは、ファッション動画マガジンの運営やソーシャルマーケティング支援事業を行っている企業です。 TSIホールディングスは本M&Aの実施により、ミレニアル世代を中心とした顧客層の獲得やD2C事業・デジタルマーケティングの拡大を目指しています。

Zホールディングス×ZOZO

Zホールディングスは2019年11月、ZOZOの株式の50.1%を取得し連結子会社化しました。

譲渡(売り手)側 ZOZO
譲受(買い手)側 Zホールディングス
M&Aの目的
  • EC事業の強化
  • 顧客層・販路拡大などのシナジー効果獲得
M&Aのスキーム 株式譲渡

ZホールディングスはEコマースやインターネット広告など、IT事業を多角的に展開しています。 対するZOZOは、アパレルECサイト運営を中心に事業展開をしているアパレル企業です。

ZホールディングスはZOZOの子会社化によってEC事業を強化し、ZOZOはZホールディングスが持つ経営資源の活用を目的として、本M&Aを実施しています。

まとめ

アパレル業界では流通構造の位置によって市場規模が異なり、経営で抱える課題にも違いがあります。M&Aを検討するアパレル企業は、SPA企業になるための垂直統合や、EC・D2D事業の強化、経営安定化などを目的としてM&A先を探すことになるでしょう。 アパレル業界のM&Aを成功させるためには、M&A実績が豊富な専門家に相談することがおすすめです。

株式会社レコフは豊富なM&A成約実績があり、アパレル企業の課題を解決できるM&A戦略をご提案いたします。

監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長

澤田 英之(さわだ ひでゆき)

金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。

ご相談無料

M&Aのことなら、
お気軽にご相談ください。

お電話で
お問い合わせ

電話アイコン
03-6369‐8480

営業時間 / 平日9:00〜18:00

M&Aを知る最新記事

選ばれる理由

  • 創業1987年の老舗イメージ画像
    1

    創業1987年の老舗

    レコフは日本にM&Aという言葉が広まる前から創業している歴史あるM&A助言会社で、豊富な実績がございます。

  • 業界トップクラスの成約件数実績イメージ画像
    2

    業界トップクラスの
    成約件数実績

    創業以来、1,000件以上の案件の成約をサポートして参りました。M&Aブティックの草分けとして様々な案件に携わってきた経験を蓄積し、新たなご提案に活用しております。

  • 約2万社の顧客基盤数イメージ画像
    3

    業界に精通した
    アドバイザーがサポート

    プロフェッショナルが業界を長期間担当し精通することにより、業界の再編動向、業界を構成する各企業の歴史や戦略、トップマネジメントの人柄に至るまで、対象業界に関する生きた情報を把握しております。

ご相談無料

M&Aのことなら、
お気軽にご相談ください。

お電話で
お問い合わせ

電話アイコン
03-6369‐8480

営業時間 / 平日9:00〜18:00