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マツエクサロンのM&A動向

業界別M&A

2025.09.16更新日:2025.09.16

女性に人気のまつ毛エクステンション(「マツエク」)を提供するサロンは、小規模な店舗で経営できながらも高い需要がある美容業です。

反面で競争の激化や人手不足など、マツエクサロンには経営に関わる課題もいくつか存在します。マツエクサロンのM&Aを検討している方は、業界の特色や課題を把握することが大切です。

今回はマツエクサロンとは何かから、マツエクサロン業界の現状・課題やM&A動向、M&Aのメリットと取引価格相場までを徹底解説します。

目次
 
 

マツエクサロンとは?

マツエクサロンとは、利用客にまつ毛エクステンション(マツエク)施術を専門的に提供する美容サロンのことです。マツエクは自まつ毛に人工まつ毛を装着し、まつ毛を長く見せられる施術を指します。

マツエクの他に、自まつ毛をカールさせるまつ毛パーマやまつ毛の染色なども行う店舗は「アイラッシュサロン」とも呼ばれます。まつ毛に関するさまざまなサービスを提供するマツエクサロン・アイラッシュサロンは、目元を華やかに見せたい女性に人気です。

なお、マツエクサロンでマツエクなど目元の施術を行う人は「アイリスト」と呼ばれます。アイリストは美容師免許の取得が必須とされている職業です。

マツエクサロンの特色

マツエクサロンには、以下のような特色があります。

●個人経営の小規模店舗が多い

マツエクサロンは大規模な設備や機材がなくてもサービスを提供できることから、個人経営の小規模店舗が多くなっています。 小規模なマツエクサロンの場合、雇用するスタッフはアイリストも含めて少人数に抑えられています。利用客は地元のリピーターが多く、地域密着型のサービスを提供している点が特色です。

●美容室や他サロンに併設されることが多い

マツエクなど目元関連のサービスを提供するマツエクサロンは、他の美容サービスとの相性が良い業種です。マツエクサロン単体で営業する事業者も存在するものの、美容室や他サロンに併設されることが多い傾向にあります。 マツエクサロンの利用客に併設の美容サービスを紹介したり、美容室が提供するプランの一部としてマツエクを提供したりなど、サービスの幅を広げられる点が魅力です。

マツエクサロンの現状と課題

専門的な美容サービスは女性を中心に高い人気があり、マツエクサロンにも安定した需要があると考えられます。 しかし、店舗によっては様々な課題が存在します。マツエクサロンの経営に関わる方は、業界の現状と課題を理解しておきましょう。

以下では、マツエクサロンの現状と課題を5つのポイントに分けて解説します。

立地条件が売上に大きく影響する

マツエクサロンは来店型のビジネスであり、立地条件が売上に大きく影響します。駅前や商業施設内など、立地条件が良い店舗であれば売上は伸びやすくなるでしょう。

また、マツエクサロンの主な顧客層は20~30代の女性であり、特に若い女性は車を持っていないケースが多い傾向にあります。駅から遠かったり、仕事や買い物帰りに立ち寄りにくかったりする場所は集客が難しく、売上が低下しやすいことが課題です。

競合増加によって低価格化が進んでいる

マツエクサロンを含む美容業界は競合が増加していて、価格競争による低価格化が進んでいます。

マツエクサロン自体の店舗数は公表されていないものの、2024年における「マツエクサロン含むアイビューティーサロン」の市場規模は直近5年で最も高くなっています。

(出典:J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]「まつ毛エクステサロン」https://j-net21.smrj.go.jp/startup/guide/service/2017071301.html

アイビューティーサロン全体の市場規模拡大に伴い、マツエクサロンの店舗数も増加傾向にあると捉えられるでしょう。美容業種・隣接業種からの事業進出も増加しており、小規模経営の事業者は低価格化の影響を受けて経営が厳しくなることが多くなっています。

開業・閉業の動きが激しい

マツエクサロンは設備投資などのコスト負担が比較的小さく、参入障壁が低いため開業しやすい業種です。一方で、経営を維持することは決して簡単ではなく、オープンから1年以内に閉店するケースも少なくありません。

マツエクサロンが閉店する主な理由は業績の悪化です。業績悪化の背景には「価格設定が安く利益が出ない」「ターゲット層を絞り込めていなかった」「競合に顧客を奪われた」などさまざまな要因があります。

人手不足が慢性化している

マツエクサロンを経営するには、美容師免許を取得しているアイリストやスタッフなどの人手が必要です。しかし、美容師免許を持っている人や美容業界に興味を持つ人がマツエクサロンを志望してくれるとは限らず、マツエクサロン業界では人手不足が慢性化しています。マツエクの技術を学ぶスクールや講習会で技術を習得してもらう必要もあり、速やかな人手確保が難しい業界です。

また、アイリストは細かな作業を行う職種であり、活躍する年齢は20~30代が多くなっています。年齢を重ねるとアイリストとして働けなくなるケースがあることも、人手不足につながる要因と考えられるでしょう。

優秀なスタッフがいなければリピーター増加が見込めない

マツエクサロンは、優秀なスタッフがいなければリピーター増加が見込めず、売上を伸ばしにくい点も課題です。マツエクそのものは高い技術力が必要な施術ではありません。しかし、まつ毛は見た目に大きく影響する部位であり、「多少高くても理想の施術をしてくれるサロンを利用したい」といった強いこだわりを持つ利用客が多い傾向にあります。

例え立地が良い・競合より安いといった集客しやすい店舗であっても、要望に合わせた施術を行えるスタッフがいなければリピーターの増加は見込めません。マツエクサロン業界全体で人手不足が慢性化していることもあり、優秀なスタッフの確保は売上に影響する大きな課題となっています。

マツエクサロンのM&A動向

マツエクサロン業界では、課題への対応・解決の手段としてM&Aが増加傾向にあります。マツエクサロンのM&Aを検討する際は、業界でどのようなM&Aが実施されているかを知ることが大切です。

ここからは、マツエクサロンのM&A動向として、主なM&Aのパターンと動向を3つ紹介します。

隣接業種によるアイラッシュ領域への参入を目的としたM&A

マツエクサロンのM&Aは、エステサロンや美容室といった隣接業種による買収が多くなっています。マツエクサロン業界は市場規模が拡大傾向にあり、隣接業種はアイラッシュ領域への参入により美容サービス事業の囲い込みと売上向上を目指します。

特に大手・中堅の美容室チェーンによるマツエクサロンの買収が活発化している状況です。若い女性の中にはマツエクの経験がない方も多く、マツエクサロンは大手・中堅の隣接業種とのM&Aによって顧客獲得が見込めるでしょう。

隣接業種にとっても、マツエクサロンの経営資源をM&Aで獲得できる利点があります。

倒産・廃業の回避を目的としたM&A

マツエクサロンは個人経営などの小規模店舗が多く、経営を維持することは簡単ではありません。小規模店舗を中心に、倒産・廃業の回避を目的として大手とのM&Aを実施するケースが見られます。

M&Aによって大手の傘下に加われば、大手の資金力を活かして経営基盤を強化することが可能です。大手のブランドイメージも活用できるようになり、集客安定化から売上の向上を期待できるでしょう。

選択するM&Aスキームによっては負債を譲受側が引き受けてくれるケースもあり、経営難のマツエクサロンにとってリスクを回避できる手段となります。

人材確保を目的としたM&A

マツエクサロンが売上を高めるには優秀なアイリスト・スタッフが必要となるため、人材確保を目的としてM&Aも活発に行われています。

マツエクの施術を行うには美容師免許に加えてマツエクの技術習得をしなければならず、人材育成には多くの時間がかかります。人材育成にかかる時間を省き、人材不足の課題を素早く解決できることが、M&Aによる人材確保の利点です。

ただし、人材確保を目的としたM&Aでは譲渡側の人材力が大きな評価点であり、M&A後に人材が離職すると目的を達成できなくなります。譲渡側・譲受側ともに、人材の離職が起こらないように対策することが重要です。

【立場別】マツエクサロンにおけるM&Aのメリット

M&Aを行う会社は、事業などを売却する譲渡(売り手)側と、買収する譲受(買い手)側の2つの立場に分けられます。 マツエクサロンのM&Aを実施する際は自社の立場を把握した上で、M&Aのメリットを考えましょう。

次に、マツエクサロンにおけるM&Aのメリットを、立場ごとに詳しく解説します。

「譲渡(売り手)側」のメリット

M&Aでマツエクサロン事業や会社を売却する譲渡側は、以下のようなメリットがあります。

●大手の傘下に入ることで経営が安定する

M&Aによって大手の傘下に入ると、大手の資金力を活用できるため経営が安定します。魅力的なサービスの提供や広告宣伝ができるだけでなく、仕入れコスト削減などのスケールメリットも得られるため、経営効率が良くなるでしょう。

●従業員の雇用を維持できる

倒産・廃業をする場合は従業員を解雇しなければならないものの、M&Aでマツエクサロンを譲渡すれば従業員の雇用を維持できます。解雇通告や退職金の支払いなどが発生せず、経営者の負担にならない点がメリットです。

●創業者利益を獲得できる

マツエクサロンのM&Aを実施すると、譲渡側の経営者は創業者利益として売却益を獲得できます。創業者利益は経営者が自由に使えるお金であり、生活資金や新たな事業資金といったM&A後の人生に必要なお金として活用可能です。

●個人保証が解除される

小規模なマツエクサロンでは、金融機関の融資を受けるために経営者の個人保証を設定しているケースがあります。M&Aの条件として個人保証を譲受側に引き継いでもらえば、経営者の負担になっていた個人保証を解除できます。

「譲受(買い手)側」のメリット

マツエクサロン事業や会社を買収する譲受側のメリットは、主に以下の3点です。

●経営資源をまとめて獲得できる

マツエクサロンをM&Aすると、譲受側はマツエクサロン経営に必要なノウハウ・人材・顧客などの経営資源をまとめて獲得できます。引き継いだ経営資源を活用して、スムーズにマツエクサロン事業をスタートできるでしょう。

●コスト削減につながる

マツエクサロンは比較的開業しやすい業種であるものの、新規開業する際には土地・店舗購入などの初期費用が発生します。M&Aをすれば経営に必要な土地・店舗も入手できるため、新規開業する場合よりもコスト削減をすることが可能です。

●既存事業とのシナジー効果を生み出せる

譲受側が美容室などの隣接業種である場合は、既存事業とマツエクサロン事業とのシナジー効果を生み出せます。たとえばマツエクサロンから引き継いだ顧客が美容室にも通ってくれるようになったり、2つのサービスを組み合わせた新しい美容サービスを開発したりもできるでしょう。

隣接業種のM&Aは、シナジー効果でより魅力的なサービスを顧客に提供でき、売上アップを目指せるメリットがあります。

マツエクサロンの主なM&Aスキーム

M&Aスキームとは、M&Aで用いられる具体的な手法のことです。マツエクサロンのM&Aでは主に「株式譲渡」「事業譲渡」「会社分割」の3つのスキームが使い分けられています。

選択するスキームによってM&Aの手続きや得られるメリットが変わるため、スキームの違いを理解してマツエクサロンのM&Aを進めましょう。

株式譲渡

株式譲渡は、譲渡側のマツエクサロンが自社株式を譲受側へと売却し、譲受側は金銭などの対価を支払うスキームです。株式を売却した譲渡側にとって、譲受側は株主になります。

株式譲渡は株式のみを取引するスキームであり、手続きが比較的簡単に進むことが特徴です。譲渡側は自社事業のマツエクサロンを継続して運営でき、譲受側はマツエクサロンの事業資産をそのまま活用できるメリットがあります。

ただし、株式譲渡は資産・負債を一括して引き継ぐ包括承継であるため、譲受側は簿外債務などの想定外の負債に注意しなければなりません。譲渡側にとっても、負債がある場合はM&A先を見つけにくいデメリットがあります。

尚、マツエクサロンの経営を個人事業として行っている場合、個人事業主には株式が存在しないため株式譲渡を利用できません。

事業譲渡

事業譲渡は、譲渡側が保有するマツエクサロン事業を譲受側に売却して、対価として金銭などの支払いを受けるスキームです。マツエクサロン事業は譲渡側の手を離れ、譲受側の事業として運営されることになります。

事業譲渡は特定の事業を選択して売却できるため、マツエクサロン事業を単体で売却したい場合に適したスキームです。譲受側にとっても買収する対象を選別できて、不要な事業や負債を引き継がずに済むメリットがあります。

事業譲渡のデメリットは引き継ぐ資産ごとに手続きが発生して、手間がかかる点です。雇用契約の締結し直しや、行政への事業譲渡届出も必要であり、開業までに時間がかかる可能性があります。

会社分割

会社分割は、会社が保有する事業の一部もしくは全部を他の会社に引き継ぐスキームです。事業に関する権利義務を既存の会社に引き継ぐ「吸収分割」と、新設した会社に引き継ぐ「新設分割」の2通りの手法があります。

複数の事業を展開している会社が事業のスリム化を図ったり、グループ企業が再編を進めたりするときに適したスキームです。会社分割は包括承継であり、マツエクサロンのM&Aに関する手続きが簡潔に済みます。

新設分割の場合は新設会社の株式を対価にできるため、譲受側が大きな資金を準備しなくてよい点もメリットです。

マツエクサロンのM&A相場

マツエクサロンのM&A相場は、300万~1,000万円程度とされています。

しかし、これはあくまでも一般的な相場の金額であり、実際の取引価格は売り手・買い手が話し合って決めるものです。具体的には、取引するマツエクサロンに関わる下記の項目を判断した上で決まります。

  • マツエクサロンの店舗数や店舗の規模
  • 立地条件の良さ
  • 従業員の人数と技術
  • 顧客の人数
  • 売上高と利益率
  • 資産と負債の金額

なお、企業価値評価は一般的に上記の項目から行われます。企業価値評価とは、会社や株式の価値を算出・評価することです。企業価値評価の手法は「コストアプローチ」「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」の3つがあります。

コストアプローチ 譲渡企業の純資産額を基準として、企業価値を評価します。
インカムアプローチ 譲渡企業に将来見込まれる収益力に着目して、企業価値を評価します。
マーケットアプローチ 譲渡企業と類似する同業他社の株価や類似のM&A事例を参考に、企業価値を評価します。

M&Aで行う企業価値評価は、3つのうちいずれか、あるいは2つ以上を組み合わせて算出します。例えば事業の将来性を重視するM&Aであればインカムアプローチを利用し、譲渡側が非上場企業であればマーケットアプローチを併用することもあるでしょう。

企業価値評価の算定方法は複雑であり、譲渡側と譲受側では算定した金額に差があるケースもあります。譲渡側・譲受側の双方が納得できる取引価格を算定するには、M&Aに詳しく、2社を仲介できる専門家の支援が必要です。

まとめ

マツエクサロンの経営には、立地条件・スタッフの技術による売上への影響や、競合増加による低価格化などの課題があります。業界が抱える課題の解決策として、同業種同士はもちろん、隣接業種とのM&Aも活発化している状況です。

マツエクサロンのM&Aにおけるメリットは、譲渡側は「経営の安定化」「従業員の雇用維持」、譲受側には「経営資源の獲得」「開業や経営のコスト削減」などがあります。

マツエクサロンのM&Aを検討する方は、専門知識を有しているM&Aアドバイザーの協力を得た上でM&Aを進めると良いでしょう。

監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長

澤田 英之(さわだ ひでゆき)

金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。

 
 
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