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音楽業界のM&A動向

業界別M&A

2025.06.16更新日:2025.06.16

音楽業界はビジネスの変革が著しく、同業種M&Aだけではなく他業種M&Aも活発に行われている業界です。音楽業界のM&Aを考えていて、「音楽業界の動向はどうなっているか」「どのようなM&Aが自社に適しているか」が気になる方も多いでしょう。

今回は音楽業界の市場規模やM&A動向を説明したうえで、音楽業界のM&Aを実施するメリットとM&A事例などを紹介します。音楽業界のM&Aを成功させるポイントも解説しますので、音楽業界のM&Aを検討している方はぜひ参考にしてください。

目次
 
 

音楽業界とは?

音楽業界とは、アーティストが録音・制作したマスター音源の原盤権を保有し、音楽作品の販売・配信やコンサート開催などの音楽関連ビジネスを展開する業界のことです。また、音楽業界と一口に言っても、大きく「音楽プロダクション」「レコード会社」「音楽出版社」の3つに分類されています。

(1)音楽プロダクション

音楽プロダクションは、歌手・演奏者・作詞家・作曲家などのアーティストが所属する事業者です。

音楽プロダクションでは主にアーティストのスカウトと育成、プロモーションやスケジュール管理といったマネジメント業務を全般的に行います。アーティストが音楽制作に集中できる環境を構築し、音楽作品を市場に送り出すことが音楽プロダクションの役割です。

音楽プロダクションの中には、アーティストが設立して自身のマネジメントを行う個人事務所も少なくありません。しかし、アーティストの多くは規模が大きい音楽プロダクションに所属する傾向にあります。

(2)レコード会社

レコード会社は、アーティストと契約をして音楽作品を収録し、CDなどの記録媒体を作って流通・販売する事業者です。アーティストと契約したレコード会社は音源の独占販売権を獲得でき、契約期間中は他のレコード会社が同一の音源を販売できなくなります。

また、レコード会社は「メジャーレーベル」「インディーズレーベル」の2つに分けられます。メジャーレーベルは規模が大きいレコード会社であり、豊富な資金力を活かして大きなビジネスができることが特徴です。音楽作品の収録や流通・販売のほかに、新人アーティストの発掘やマネジメントなど、音楽プロダクションに近い業務も行います。

インディーズレーベルは、アーティストの個性や独自性を重視するレコード会社です。メジャーレーベルと比べて規模が小さいものの、自由度が高い音楽制作を行えることを特徴としています。

(3)音楽出版社

音楽出版社は、音楽作品の著作権を管理する事業者です。

主な事業としては、アーティストから著作権を預かって楽曲の利用許諾を行うほか、発生した著作権使用料の徴収と分配等を行います。音楽出版社が音楽著作権を管理することにより、アーティストは自身の音楽作品の利用者から収益を得られる仕組みです。

また、レコード会社からの委託による音楽作品の原盤制作だけでなく、音楽出版社自身が音楽配信サービスを提供するケースもあります。

音楽業界の市場規模と今後の動向

一般社団法人 日本レコード協会によると、音楽ソフト(オーディオレコード・音楽ビデオ)の生産数量と金額は下記の通りになっています。

  数量/前年比 金額/前年比
オーディオレコード 1億815.2万枚/97% 1,490億円/102%
音楽ビデオ 3,321.8万枚/71% 562億円/75%
音楽ソフト全体 1億4,137万枚/89% 2,052億円/93%

(出典:一般社団法人 日本レコード協会「日本のレコード産業2025」https://www.riaj.or.jp/f/pdf/issue/industry/RIAJ2025.pdf )

一方で、音楽配信の数量と金額は下記の通りです。

  数量/前年比 金額/前年比
音楽配信 3847.4万枚/95% 1.233億円/106%

(出典:一般社団法人 日本レコード協会「日本のレコード産業2025」https://www.riaj.or.jp/f/pdf/issue/industry/RIAJ2025.pdf )

オーディオレコードは金額が伸びているものの、音楽ソフト全体では数量・金額ともに減少傾向にあります。データを比較すると、音楽配信のほうが金額は増加傾向にあることが特徴です。

近年は音楽の視聴環境が大きく変化しており、CDや音楽DVD・ブルーレイの売上が減少していることが、音楽ソフトの金額が減少している原因と言えるでしょう。一方でサブスクリプションサービスの普及により、ストリーミング型音楽配信は有料音楽の主軸となりつつあります。

市場規模としては音楽ソフトが占める割合は大きいものの、今後はネットを活用したデジタルサービスがより大きな利益を生むと考えられます。音楽業界では、サブスクリプションサービスやオンラインライブといった新しいビジネスへの対応が求められている状況です。

音楽業界のM&A動向

音楽業界においては、経営基盤の強化や提供するサービスの多角化を目的とした異業種M&Aが活発化しています。 例として、芸能業界の企業と、ライブ配信事業を手がける音楽会社のM&Aが行われています。VR(バーチャルリアリティー)ライブなど、ライブ配信の多様性の広がりが注目されたことによる異業種M&Aです。
また、全国にフランチャイズ店舗を持つ小売業が、音楽ソフトやコンサートチケットのネット販売を行う企業を買収したケースもあります。音楽産業のデジタルサービスが発展したことにより、他業界の参入がしやすくなった事例と言えるでしょう。

ライバー(個人クリエーター)が所属するライブエージェンシー企業とのM&Aも少なくありません。ライバーは音楽・動画コンテンツの市場で大きな影響力を持っており、大手の音楽会社を中心に新人の発掘・育成を目指す動きが見られるようになっています。

音楽業界におけるM&A実施のメリット

音楽業界でM&Aを実施するメリットとして、下記の4点が挙げられます。

●競争が激化する市場への対応力を高められる

近年は多岐にわたる娯楽が登場しており、音楽業界は、業界内だけでなく業界外との競争も激化しています。同業種M&Aや異業種M&Aにより、経営基盤の強化や事業領域の拡大ができて、変化する市場への対応力を高めることが可能となります。

●多様化するコンテンツとユーザーニーズに対応したサービス展開ができる

デジタル技術の普及により、VRライブやストリーミング配信など音楽産業のコンテンツは多様化しています。得意分野が異なる2社がM&Aを通して提携することにより、多様化するコンテンツとユーザーニーズに対応しやすくなるでしょう。

●音楽コンテンツのグローバル化に対応できる

近年は音楽コンテンツがインターネットを通して世界に発信される機会が増えており、音楽業界ではグローバル化への対応が課題となっています。海外への情報発信に強みを持つ異業種とのM&Aを行えば、グローバル化への対応を進められます。

●収益源を増やして経営リスクを低減できる

音楽産業は安定した市場規模があり、他業種の企業にとって音楽業界のM&Aは事業参入のチャンスです。利益を見込める音楽会社を買収すれば収益源を増やすことができ、経営リスクを低減できるメリットがあります。

音楽業界における主なM&A事例7選

音楽業界のM&Aを成功させるには、M&Aの事例を参考にすることも有効です。 以下では、音楽業界における主なM&A事例を7つ紹介します。音楽業界のM&Aを検討している方は、それぞれの事例でのM&Aの目的や2社の関係を参考に、自社でどのようなM&Aをするべきかを考えると良いでしょう。

ユニバーサル ミュージック合同会社×株式会社A-Sketch

ユニバーサル ミュージック合同会社は2025年2月、株式会社アミューズが保有する株式会社A-Sketchの全株式を取得することを発表しました。

譲渡(売り手)側 株式会社A-Sketch
譲受(買い手)側 ユニバーサル ミュージック合同会社
M&Aの目的
  • 若い世代への訴求力が高いコンテンツの提供
  • マネジメント機能の強化
  • アーティストやクリエイターのグローバル展開の支援
M&Aのスキーム 株式譲渡

ユニバーサル ミュージック合同会社は、数多くのレーベルを擁する国内最大手のレコード会社です。 一方の株式会社A-Sketchは、所属アーティストのマネジメントを主に行う会社です。
本M&Aによってユニバーサル ミュージック合同会社が株式会社A-Sketchの筆頭株主となり、提供するコンテンツの強化につながることが期待されています。

株式会社Ridge-i×株式会社スターミュージック・エンタテインメント

株式会社Ridge-iは2024年6月、株式会社スターミュージック・エンタテインメントの株式を過半数取得して子会社化しました。

譲渡(売り手)側 株式会社スターミュージック・エンタテインメント
譲受(買い手)側 株式会社Ridge-i
M&Aの目的
  • 音楽事業へのAI活用の実践
  • 広告マーケティングや制作・媒体配信への事業参入
  • クリエイター向けのAIプラットフォームの展開
M&Aのスキーム 株式譲渡

譲受側の株式会社Ridge-iは、データ・AIを用いて顧客の課題に最適なソリューションを提案する企業です。 対する譲渡側の株式会社スターミュージック・エンタテインメントは、ソーシャルメディアマーケティング事業と音楽事業を展開しています。 株式会社Ridge-iは本M&Aにより、蓄積したAIの知見と技術力を音楽事業などで活かすことを目指しています。

Sony Music Entertainment×Som Livre

Sony Music Entertainment(SME)は2021年4月、Som Livreの全株式と関連資産を取得することを発表しました。

譲渡(売り手)側 Som Livre
譲受(買い手)側 Sony Music Entertainment
M&Aの目的
  • ブラジル含むラテン地域へのアプローチ強化
  • Som Livreの持続的な成長
M&Aのスキーム 株式譲渡

SMEは、ソニーグループ内で複数のレーベルを統括する会社です。 一方、Som Livreはブラジルの独立系音楽レーベルであり、SME傘下の「The Orchard」と長年にわたり良好な関係を築いてきました。 クロスオーバーM&Aにより、SMEはラテン地域へのアプローチ強化やSom Livreに所属するアーティストへのサポート強化を目指しています。

Sony Music Entertainment×AWAL

Sony Music Entertainment(SME)は2021年2月、AWALの買収を発表しました。

譲渡(売り手)側 AWAL
譲受(買い手)側 Sony Music Entertainment
M&Aの目的
  • 音楽産業におけるグローバルネットワークの拡大
  • アーティストがファン・市場にアクセスする機会の創出
M&Aのスキーム 株式譲渡

SMEはレコード制作からアーティストマネジメント、音楽出版事業まで幅広く手がけており、海外のレーベルや音楽業界とのつながりに強みを持っています。 譲渡側のAWALは、大手アーティスト向けのサービス事業を展開する会社です。 SMEは本M&Aにより、世界中のさまざまなアーティストに向けてキャリア構築に必要なソリューションを柔軟に提供できるとしています。

株式会社アミューズ×株式会社ライブ・ビューイング・ジャパン

株式会社アミューズは2019年12月、株式会社ライブ・ビューイング・ジャパンの株式を追加取得して子会社化しました。

譲渡(売り手)側 株式会社ライブ・ビューイング・ジャパン
譲受(買い手)側 株式会社アミューズ
M&Aの目的
  • 多様化するライブコンテンツへの対応
M&Aのスキーム 株式譲渡

譲受側の株式会社アミューズは、音楽事業のほかにイベント関連事業・CM事業も行っている大手芸能事務所です。 一方で譲渡側の株式会社ライブ・ビューイング・ジャパンは、ライブ・ビューイング事業を主に展開しています。 株式会社アミューズは本M&Aにより、ライブ・ビューイング事業の強みを取り込むことによるシナジー効果の創出を目指しています。

エイベックス株式会社×株式会社LIVESTAR

エイベックス株式会社は2019年11月、株式会社LIVESTARの株式を取得して子会社化することを決議しました。

譲渡(売り手)側 株式会社LIVESTAR
譲受(買い手)側 エイベックス株式会社
M&Aの目的
  • クリエイター育成や支援のノウハウ獲得
M&Aのスキーム 株式取得

エイベックス株式会社は、音楽作品の制作・販売やアーティストのマネジメントなどを事業とする会社です。 株式会社LIVESTARは、個人クリエーターが所属するライバー事務所です。 エイベックス株式会社は近年、インフルエンサーやライブ配信・YouTuberに関する領域を強化しており、本M&Aによってグループ全体でのヒット創出を目指しています。

株式会社ローソン×HMVジャパン株式会社

株式会社ローソンは2010年12月、HMVジャパン株式会社の全株式を取得して完全子会社化しました。

譲渡(売り手)側 HMVジャパン株式会社
譲受(買い手)側 株式会社ローソン
M&Aの目的
  • リアル・ネット両面での総合エンターテインメントショップの実現
  • ユーザビリティや商材開発力の向上
M&Aのスキーム 株式譲渡

株式会社ローソンは、全国にコンビニエンスストアをフランチャイズ展開する会社です。 一方でHMVジャパン株式会社は、当時の音楽ソフトネット通販で大きなシェアを占めていました。 株式会社ローソンは、エンターテインメント領域における総合的な商材提供の機会を得られると考え、本M&Aを実施しました。

音楽業界のM&Aを成功させるためのポイント

M&Aは実施するまでに複雑なプロセスが必要であり、音楽業界の動向や知識も求められます。M&Aには行うべき準備や注意すべきリスクもあるため、実施前に重要なポイントを把握しておきましょう。

最後に、音楽業界のM&Aを成功させるために押さえておきたい3つのポイントを解説します。

事前準備の徹底

M&Aを通して自社の課題解決や目標達成をするには、事前準備の徹底が欠かせません。下記の内容を参考にM&Aの準備を進めましょう。

  • M&Aを実施する流れの把握
  • 音楽業界における自社の強み・弱みの分析
  • M&Aの実施目的の明確化
  • 音楽業界の動向調査
  • M&A先候補の情報収集 など

特に重要なのが「音楽業界における自社の強み・弱みの分析」「M&Aの実施目的の明確化」の2点です。 自社の強みと弱みを分析することで、M&Aが成功しやすい交渉相手を探しやすくなります。 また実施目的の明確化は、最適なM&A先の選定を行う際に必要です。M&Aの締結条件をまとめるときにも、自社にとって譲れない条件の判断基準として役立ちます。

リスクの把握と対策

M&Aは2社以上の企業が絡む取引であり、実施によって何らかのリスクが発生するケースもあります。M&Aを実施する前に、M&Aによって起こり得るリスクの把握と対策を行いましょう。

M&Aで起こり得るリスクの1つが、譲渡側・譲受側の双方の従業員間でコミュニケーションの問題が発生することです。コミュニケーションの問題を防ぐには、両社の企業文化の違いを把握して、PMIによる意識統合・業務統合を綿密に計画する必要があります。 また、譲受側はM&Aの実施前に必ずデューディリジェンスを実施しましょう。デューディリジェンスは譲渡側企業に対して行う詳細な調査であり、財務・法務などのリスクを事前に把握できます。

M&A専門家への相談

M&Aを成功させるための近道が「M&A専門家への相談」です。M&A専門家はM&Aについての知識を有していて、M&Aを行いたい企業へのアドバイスや仲介・交渉のサポートをしてくれます。

M&Aの相談先には士業や金融機関、商工会議所など複数の機関があります。その中でも、M&Aに関する専門的な知識・知見を最も多く有しているのは「M&Aアドバイザー」です。M&AアドバイザーはM&Aを検討している譲渡側と譲受側の間に立ち、双方が納得できるM&Aを実現できるようにサポートしてくれます。 音楽業界は独自の業界構造やアーティスト・クリエーターとの関係性があり、専門家の協力なしではM&Aの成功が難しい業界です。音楽業界のM&Aをスムーズに進めて自社の目的を達成するには、M&A専門家への相談をすることがおすすめです。

まとめ

音楽業界では音楽配信ビジネスが市場規模に占める割合が大きくなり、グローバル化の影響もあるなど、大きな変革が起きています。経営基盤の強化や事業領域の拡大を目的として、異業種M&AやクロスオーバーM&Aが活発に行われている状況です。
音楽業界のM&Aを成功させるためには事前準備やM&Aのリスク把握と対策、M&A専門家への相談を行いましょう。

M&Aのサポートを受けたい方は「株式会社レコフ」にご相談ください。株式会社レコフは37年以上にわたるM&A助言の実績があり、音楽業界のM&Aを準備段階からサポートいたします。

監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長

澤田 英之(さわだ ひでゆき)

金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。

 
 
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