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業界別M&A
歯科医院は一般的な歯科治療のほかに虫歯予防・審美歯科によるニーズ拡大がある一方、医院数の飽和や患者数の減少といった課題もあります。
経営する歯科医院の経営継続を目的として、あるいは業界での競争力強化を図るために、歯科医院のM&Aを検討している方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、歯科医院の課題とM&A動向を説明した上で、譲渡(売り手)側・譲受(買い手)側双方のメリットやM&Aの実施手順を解説します。歯科医院のM&Aを成功に導くためのポイントも紹介するため、ぜひ最後までご覧ください。
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事業承継・譲渡売却は
歯科医院とは、虫歯の治療や補綴などの歯科医療を提供する診療所のことです。一般的に歯医者と言うと歯科医院を指し、歯科医院が属する業界は「歯科業界」と呼ばれます。
歯科医院の診療科目には、下記のような種類があります。
| 一般歯科 | 虫歯治療や根管治療など、一般的な歯科診療を行います。 |
|---|---|
| 小児歯科 | 子どもに対する専門的な歯科診療を行います。 |
| 矯正歯科 | 歯並びやかみ合わせの改善を目的とした治療を提供する診療科です。 |
| 歯科口腔外科 | 一般歯科の領域を除く、口腔全般に現れる疾患を扱う診療科です。 |
| 審美歯科 | 歯や口元の美しさに重点を置いた診療を行います。 |
なお、歯科医療を提供する医療機関には「病院歯科」もあります。病院歯科とは、20床以上の病床を持つ病院において、診療科の1つとして置かれている歯科のことです。歯科医院は病床が19床以下の診療所・クリニックであり、病院歯科とは医療機関としての種類が異なります。
また病院歯科では、歯科医院での治療が困難な歯の疾患・外傷について治療を提供している点にも違いがあります。

歯科医院は歯の治療という需要が大きい医療サービスを提供しているものの、安定的な経営ができるとは限りません。実態としては競争激化や廃業など、さまざまな課題を抱えています。
以下では歯科医院を取り巻く環境を4つ挙げて、それぞれの現状から見える経営課題を説明します。
歯科医院は一般的な病院・診療所と比較して、開業に必要な設備投資などを安く抑えられます。勤務医も経営者の歯科医師1人だけの個人経営が多く、歯科医師はほかの医療系専門職よりも独立しやすいことが特徴です。
こうしたこともあり、歯科医院は全国で慢性的な飽和状態にあります。厚生労働省が公表する医療施設動態調査によると、2025年8月時点での歯科診療所(歯科医院)の施設数は65,645軒でした。
(出典:厚生労働省「医療施設動態調査(令和7年8月末概数)」/
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/m25/dl/is2508.pdf)
参考として、コンビニエンスストアの全国における店舗数は、同じ2025年8月時点で55,923店です。歯科医院の数はコンビニエンスストアよりも多い状況にあります。
(出典:一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会「コンビニエンスストア 統計データ」/
https://www.jfa-fc.or.jp/folder/1/img/20250922104508.pdf)
歯科医院が慢性的な飽和状態にあることにより、歯科業界では競争が激化しています。歯科医院が売上を高めるためには、一般的な歯科治療だけでなく、患者さんのニーズが高い診療科目も展開する必要があるでしょう。
歯科医院が増加している一方で日本の人口は減少しており、来院する患者数の減少傾向も予測されています。
日本歯科医師会によると、2015年対比での歯科診療所患者数は2045年時点で10.8%減少、2065年時点で25.2%減少になると推計されています。なお、2017年時点での人口減少のペースをもとに、2014年時点での歯科診療所受療率での推移という仮定であることに留意してください。
(出典:日本歯科医師会「データで見る 2040 年の社会と今後の歯科医療」/
https://www.jda.or.jp/dentist/vision/pdf/vision-02.pdf)
現在は経営できる状態の歯科医院であっても、患者数の減少がほぼ確実視されている今後の経営リスクは無視できません。現在から将来にわたって患者数をどのように維持・拡大するかが歯科医院の課題です。
歯科医院では経営者の高齢化や後継者不足により、世代交代が進まないことが問題となっています。経営者自身が唯一の勤務医として働き、後継者となる歯科医師を雇用・育成しないケースが多いことも、歯科医院での世代交代が進まない要因です。
後継者を置かないまま経営者が高齢化すると、事業継続が困難となり、廃業せざるを得なくなります。歯科医院は地域の歯科医療を担っているため、廃業してしまうと、地域の歯科医院が一時的に不足することや、歯科医療の質の低下に繋がることが考えられるでしょう。
歯科医院の慢性的な飽和状態や患者数の減少、経営者の高齢化による課題は既に顕在化しています。様々な課題の影響により、経営継続が難しくなって休廃業をしている歯科医院が増加している状況です。
株式会社 帝国データバンクの調査によると、2024年度における歯科医院の休廃業・解散件数は118件でした。歯科医院の休廃業・解散件数は2011年頃から増加傾向にあり、2024年度の件数は過去最多となっています。
(出典:株式会社 帝国データバンク「医療機関の 「休廃業・解散」 動向調査 (2024 年度)」/
https://www.tdb.co.jp/resource/files/assets/d4b8e8ee91d1489c9a2abd23a4bb5219/d2090335bc4747dcb26c740ed0d1fe75/20250122_%E5%8C%BB%E7%99%82%E6%A9%9F%E9%96%A2%E3%81%AE%E5%80%92%E7%94%A3%E3%83%BB%E4%BC%91%E5%BB%83%E6%A5%AD%E8%A7%A3%E6%95%A3%E5%8B%95%E5%90%91%E8%AA%BF%E6%9F%BB%EF%BC%882024%E5%B9%B4%EF%BC%89.pdf
廃業にあたっては施設・設備の売却や従業員の解雇、登記作業や関係機関への届出などを行わなければならず、費用や工数が負担となります。歯科医院の経営で悩む方は、M&Aなどの事業継続ができる手段も検討すると良いでしょう。

近年の歯科業界では、経営難や廃業を防ぐためのM&Aが増えています。歯科医院のM&Aを検討する方は、どのようなM&Aが行われているかを知っておくことが大切です。
歯科医院のM&Aでよく見られる3つの動向・パターンを挙げて、それぞれのM&Aにおける目的を解説します。
競争激化による経営難や後継者問題を解決するためのM&Aでは、他の歯科医院に売却するケースが多く見られます。豊富な資金力や広告宣伝力を持っている大手の歯科医院・歯科グループの傘下に加われば、自院の経営基盤を強化できるでしょう。
また、大手の歯科医院・歯科グループには多くの歯科医師が在籍していて、売却先から後継者となる歯科医師を迎え入れれば後継者問題を解決可能です。設備投資や診療科目の拡大もしやすくなり、地域により質の高い歯科医療を提供できるようになります。
居抜き物件とは、施設の内装や設備などがそのままの状態で残っている物件のことです。独立開業を目指す歯科医師の中には、歯科医院の居抜き物件を求めている方が少なくありません。
歯科医院の廃業を考えている方は、居抜き物件を求める歯科医師と交渉して、施設・設備などをそのまま引き継いでもらう方法があります。施設や設備の売却が必要なくなるため、廃業にかかる手間を大きく軽減できるでしょう。
買収する側の歯科医師にとっても、施設や設備が手入れされている状態のまま、自分の事業を始められる利点があります。
歯科業界では競争力の強化やシナジー効果の創出を目的として、関連業種や隣接業界との統合を目指すM&Aも行われています。歯科医院の関連業種や隣接業界について具体例を挙げると、歯科器材メーカーや歯科用医薬品メーカー、医療業界・介護業界等です。
関連業種や隣接業界との統合を行うことで、M&A先との業務提携により他院にはないサービスを提供できる強みが生まれます。歯科治療についての専門的な知識・技術を活用して新しい商品・サービスを開発するなど、シナジー効果も期待できるでしょう。
競争力の強化やシナジー効果を得ることにより、事業拡大や顧客獲得がしやすくなって経営基盤の安定化を図れます。

M&Aを行う事業者の立場には、事業を売却する「譲渡(売り手)側」と、買収する「譲受(買い手)側」があります。歯科医院のM&Aを実施する際は、自院の立場でどのようなメリットがあるかを知っておきましょう。
歯科医院のM&Aにおいて事業を売却する、譲渡側のメリットを4つ紹介します。
M&Aで歯科医院を売却すれば、譲受側が歯科医院の経営を承継します。歯科医院を廃業する必要がなくなり、後継者問題を解決できる点がメリットです。
後継者問題を解決する場合のM&A先は、独立開業を考えている若手の歯科医師や事業拡大を目指す歯科医院、大手の歯科医院・歯科グループといった候補があります。後継者となる歯科医師を直接雇用・育成するよりも、M&Aは多くの候補の中から自院に合う後継者を見つけられる方法と言えるでしょう。
M&Aでは基本的に、譲渡側が雇用している従業員はそのまま譲受側へと引き継がれます。歯科医院のM&Aにおいても、自院が雇用する従業員は譲受側へと引き継がれるため、医師や従業員の雇用を維持することが可能です。
仮に歯科医院を廃業する場合は、雇用している医師や従業員を解雇しなければなりません。M&Aで歯科医院を売却すれば、解雇に伴う心理的負担や退職金の支払いも発生せず、安心して事業を手放せます。
歯科医院の数は慢性的な飽和状態にあるものの、全ての地域に満遍なく歯科医院が存在するわけではありません。歯科医院の数は東京都・神奈川県・大阪府などの人口過密地域に多く、地域によっては歯科医院の数が少ないところもあります。
(出典:厚生労働省「医療施設動態調査(令和7年8月末概数)」/
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/m25/dl/is2508.pdf)
歯科医院が少ない地域において廃業を選択した場合、地域住民の方が十分な歯科医療を受けられなくなる事態も考えられるでしょう。M&Aで歯科医院を譲渡すれば、地域の歯科医療サービスの提供を維持できるという地域貢献にもつながります。
事業売却の対価として売却益(譲渡益)を獲得できる点も、M&Aの譲渡側における大きなメリットです。多くの歯科医院は院長がそのまま単独の経営者となっていて、M&Aの売却益は経営者が自由に活用できます。
また、歯科医院の開業資金・運転資金を調達するために、金融機関に個人保証や担保を設定している経営者の方も多いでしょう。M&Aで歯科医院を売却すれば債務も譲受側に引き継がれるため、個人保証や担保の返済負担から解放されます。

歯科医院の経営には専門的な知識・技術を持つ人材だけでなく、専用の設備も必要です。歯科医院の開業や事業拡大を検討している方にとって、重要な経営資源が手に入ることが主なメリットとなるでしょう。
歯科医院のM&Aによる譲受側のメリットを2つ紹介します。
歯科医院を買収することで、譲渡側が保有していた人材や患者を譲受側は継承することができます。
歯科医院の経営に必要な人材は、歯科医師をはじめとして歯科衛生士・歯科助手・受付スタッフなどが挙げられます。中でも歯科医師と歯科衛生士は国家資格の取得が必要な職種です。
M&Aによって譲渡側の人材を継続して雇用できれば、人材募集にかける費用や手間を省略できます。
また、多くの歯科医院は地域密着型で、地域に多くの顧客を保有しています。M&Aで譲渡側の患者さんも引き継ぐことにより、歯科医院の経営をスムーズに始められるでしょう。
歯科医院のM&Aでは、譲受側は低コストで歯科医院を獲得できる点もメリットです。
歯科医院を新規に開院する場合、一般的に3,000万~5,000万円程度の開業資金が必要と言われています。施設の建設・整備や設備導入に多くの時間もかかるでしょう。
歯科医院を買収すれば、新規に開院する場合と比べて費用と時間を大幅に削減可能です。結果として効率的なグループ・事業エリアの拡大を実現できます。

歯科医院のM&Aを進めるには、M&Aの実施手順や流れを理解することも重要です。M&A先探しや交渉はどのように行うか、どのタイミングで契約を締結するかをあらかじめ知っておきましょう。
以下では、歯科医院におけるM&Aの実施手順・流れを6つのステップに分けて解説します。
まずは歯科医院の譲渡・譲受のどちらを行いたいかを決めて、情報収集と基本的な方針を検討します。譲渡側は自院の経営状況や課題、地域ニーズなどをまとめましょう。譲受側は、達成したい目的を明確にして、どのような歯科医院を買収すべきかの条件を考えます。
また、M&Aをスムーズに進めるにはM&Aに詳しい専門家のサポートが必要です。事前準備の段階でM&Aアドバイザーなどの専門家に相談し、協力を得られる体制を構築しましょう。
次に、専門家と相談しながらM&Aの具体的な戦略を策定します。
戦略策定のステップでは、自院の分析や歯科業界の市場調査などをより綿密に行います。その上で、M&Aを実施するスケジュールとスキーム、譲渡・譲受の費用や条件を決定しましょう。
戦略策定の内容をもとにM&A先の選定や交渉を行うため、M&A全体の成功・失敗を左右する重要なステップです。
また、戦略策定の段階でノンネームシートや企業概要書を作成しておくとよいでしょう。
戦略策定でM&Aの具体的な方針を決定したら、専門家から提出された希望条件を満たすM&A先の候補先リストアップしてもらい、マッチングを行います。M&Aのマッチングは、譲渡側が提示するノンネームシートを譲受側が確認し、気になる内容であれば交渉を打診するという流れです。
M&Aスキームや金額・譲渡範囲などの条件である程度納得できたら、NDA(秘密保持契約書)を締結して本格的な交渉に入ります。企業概要書の提示とトップ面談を行い、M&A交渉を継続するかどうかを決めます。
トップ面談でM&Aを実施する意思を確認できた場合は、譲渡側・譲受側の間で基本合意を交わします。
基本合意の際は、基本合意書を締結することがほとんどです。基本合意書にはM&Aスキーム・金額・スケジュール・役員の処遇などの他に、デューデリジェンスの実施や独占交渉権・秘密保持義務の設定を盛り込みます。
基本合意書の締結後、デューデリジェンスを実施します。デューデリジェンスとは、譲受側が譲渡側に対して行う監査のことです。譲受側の歯科医院に帳場にない負債や経営に関わるリスクがないかなどを調査します。
デューデリジェンスが行われた後、最終交渉に入ります。最終交渉ではデューデリジェンスの結果を踏まえて金額・条件の修正を行うことになるでしょう。
最終交渉がまとまれば、M&Aの最終契約書を締結します。最終契約書はM&Aの合意事項を記載し、譲渡側・譲受側の双方に法的拘束力が発生する書類です。
最終契約書を締結後、いよいよM&Aのクロージング(取引実行)をします。クロージングは最終契約書の内容に従って、譲渡側の歯科医院を譲受側へと移転するステップです。
歯科医院のM&Aにおけるクロージングでは、都道府県知事や保健所への許認可申請が必要になることがあります。スムーズなクロージングを行うために、サポートを得ている専門家に必要な手続きや提出書類を聞いておきましょう。
クロージング後は譲受側が自院の統合を図るPMIを実施して、M&Aの手続きは完了です。

歯科医院のM&Aを成功に導くためのポイントを、譲渡側・譲受側の立場別に紹介します。
●【譲渡(売り手)側の成功ポイント】
●【譲受(買い手)側の成功ポイント】
譲渡側・譲受側のいずれの立場も、M&Aに詳しい専門家に依頼することが重要なポイントです。
M&Aを実施する際は、M&A先に提示する書類の作成や交渉など複数の作業が発生します。個人経営が多い歯科医院では、経営者がM&Aの手続きに集中できない可能性もあるでしょう。
M&AアドバイザーなどM&Aに詳しい専門家に依頼することで、書類作成のサポートや交渉仲介、デューデリジェンスやクロージングの支援を受けることができます。
歯科医院には業界内の競争激化や廃業数の増加など多くの課題があります。経営難や廃業を防ぐ選択肢として、事業の売却や他院・他業種との統合といったM&Aが増えている状況です。
歯科医院のM&Aは譲渡側・譲受側ともに多くのメリットがあります。一方でM&Aの手順は煩雑であり、専門家の協力がなければ成功させることは困難です。
歯科医院のM&Aを検討している方は、まずはM&Aの専門家であるM&Aアドバイザーに相談して、自院にとって最適なM&Aの戦略を立てましょう。
監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長
澤田 英之(さわだ ひでゆき)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。
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