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中古車販売業界のM&A動向

業界別M&A

2025.12.01更新日:2025.12.01

近年、事業承継や新規事業への参入を目的としたM&Aが活発化しています。さまざまな業界でM&Aが行われており、中古車販売業界においても注目度が高まっています。

中古車販売業界のM&Aに興味がある方は、業界の市場規模や現状について理解を深めておきましょう。

今回は、中古車販売業界の市場規模と今後の展望、業界ならではの経営課題とM&A動向について詳しく解説します。譲渡(売り手)側・譲受(買い手)側のメリット、業界内のM&A事例も紹介するため、ぜひ参考にしてください。

目次
 
 

中古車販売業界とは?

中古車販売業界とは、所有者が手放した中古車の買取や販売を行う業者の総称です。中古の自動車やオートバイ、原動機付自転車などが売買の対象です。

中古車買取業者や中古車販売業者の他、カーディーラーやレンタカー会社でも中古車販売を行っています。

販売店舗がない業者は、消費者や法人から買い取った中古車をオークションに出品して販売します。販売店舗がある場合は、買取から販売までをワンストップで行うことが可能です。購入した中古車を海外に輸出する業者は、中古車輸出業者と呼ばれます。

中古車と一口に言っても、年式が高く走行距離が少ない状態が良いものもあれば、長期間使用されたものや状態が悪いものもあります。下取りを行うカーディーラーには状態が良い中古車が集まりやすく、中古車販売業者には年式が低く走行距離が多い中古車が集まりやすい傾向にあります。

中古車販売業界の市場規模と今後の展望

株式会社矢野経済研究所が行った調査結果をもとに、2021年から2023年にかけての推計中古車小売台数を表にまとめます。

2021年 2,685,000台
2022年 2,510,000台
2023年 2,601,000台

(出典:市場調査とマーケティングの矢野経済研究所「中古車流通市場に関する調査を実施(2024年)|ニュース・トピックス」/
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3532

2022年は半導体不足や各種部品サプライチェーンの混乱の影響で中古車小売台数が減少しました。2023年には半導体不足や各種部品サプライチェーンの混乱が落ち着き、新車に買い替えるユーザーが増えたことで中古車小売台数は増加しました。

株式会社リクルートが行った中古車購入実態調査によると、中古車市場の規模は下記のように推移しています。

2021年 約4兆1,699億円
2022年 約3兆5,578億円
2023年 約3兆9,062億円
2024年 4兆8,285億円

(出典:株式会社リクルート「中古車購入実態調査2022」/
https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20221130_car_01.pdf

(出典:株式会社リクルート「中古車購入実態調査2023」/
https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20231121_car_01.pdf

(出典:株式会社リクルート「中古車購入実態調査2024」/
https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20250305_car_01.pdf

中古車小売台数が減少した2022年は中古車市場の規模が縮小傾向に転じたものの、2023年以降は市場拡大が続いています。軽自動車を中心に中古車小売台数が増加していることも背景の1つです。

中古車は新車に比べて購入価格を抑えられるため、今後も中古車への需要は拡大する可能性が高いと言えるでしょう。

大手中古車販売業者は、中古車買取業者やオークションを介さずにエンドユーザーからの直接買取の仕組みが整っているケースがほとんどです。仕入原価を下げることは利益拡大に直結するため、収益基盤の安定化が期待できます。

中古車販売業界が抱える経営課題

今後も市場の拡大が期待できる中古車販売業界ではあるものの、経営課題もあります。経営の安定と企業成長を目指す上で、どのような課題があるのかチェックしておきましょう。

ここでは、中古車販売業界が抱える経営課題を5つ解説します。

価格上昇による購入者層の確保の難化

中古車は価格が上昇しており、購入者層の確保が難しくなっています。

中古車の価格上昇の主な理由は、次の3つです。

  • 需要の増加
  • 半導体不足
  • 輸出の増加

新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、交通機関を利用せずにマイカーで移動する人が増えました。リーズナブルな中古車の需要が高まったことで、中古車の価格が上昇しました。

世界的な半導体不足で新車の生産に遅れが生じて新車を購入できない人が中古車を求めたこと、中古車の輸出が増えて国内市場への供給が減少したことも価格上昇の要因です。

ハードルの高い「保証制度・アフターサービス」の需要増加

中古車を購入するにあたって、消費者は安心して利用できるような保証制度やアフターサービスを求める傾向にあります。購入者層を確保する上で、求められるハードルが高いサービスを提供できるかどうかが重要なポイントとなります。

しかし、手厚い保証やサービスを提供するには、事業コストの増加が避けられません。保証制度やアフターサービスの充実化が必ずしも購入者層の確保につながるとは限らないため、慎重に取り組む必要があるでしょう。

デジタル化遅延による競争力低下

デジタル化が遅れている場合、競争力の低下につながります。

近年、オンラインで完結する販売サイトが普及したこともあり、消費者はさまざまな業者を比較してメリットが大きい業者を選べるようになりました。比較がしやすくなったことで、車両の質を重視する消費者が増加しています。

しかし、自動車販売は古くから対面販売が主流だったため、デジタル化が遅れている業者が多く見られます。インターネット上に十分な情報を掲載できていない場合や、対面販売へ誘導するスタイルの場合は、消費者から不信感を抱かれかねません。

対面販売に対して、「断りにくい」「言いくるめられそう」といったネガティブなイメージをもつ人もいます。

オンラインでの購入体制を強化することで、競争力の向上が期待できます。

人材不足の深刻化

少子高齢化や労働需給のアンバランスなどによる国全体の人材不足も深刻です。中古車販売業界も例外ではなく、自動車整備士や営業職、デジタルスキルを保有する人材が不足しているのが現状です。

特に自動車整備士を目指す若者が減少しており、資格保有者の高齢化が進んでいます。職業選択が多様化したことや、自動車整備項目が増加したことなども原因の1つです。

1人の求職者を多くの企業が取り合う状態となるため、待遇面の改善や採用のミスマッチの減少を図るなど、人材確保に向けた取り組みに力を入れる必要があります。

消費者ニーズの多様化

消費者ニーズを意識したビジネス展開も中古車販売業界に求められる課題の1つです。

自動車やオートバイなどを手に入れる手段として、かつては新車購入や中古車購入の二択でしたが、現在はリース・カーシェア・サブスクリプションなど選択の幅が広がっています。

「必要時のみ利用したい」「初期費用をおさえたい」「利便性を優先したい」など、消費者が求めるニーズは時代とともに変化します。消費者の年齢層によっても考え方に差があるため、柔軟に対応することも大切です。

中古車販売業界のM&A動向

中古車販売業界では、業界再編や多角的な事業展開を目的としたM&Aが活発化しています。

中古車販売業界で増えている主なM&Aは、以下の通りです。

●中古車販売店同士のM&A

中古車販売店同士のM&Aは、商圏エリアの拡大や経営資源の獲得が主な目的です。特定のエリアで事業展開をしている販売店を買収することで、スムーズに商圏エリアを拡大できます。自動車整備士や認証工場などを獲得できることも大きなメリットです。

株式譲渡や事業譲渡などのスキームが選ばれるケースが多く見られます。譲渡(売り手)側は、譲受(買い手)側の傘下または子会社になります。

●異業種からの参入

異業種からの参入は、中古車販売業界への事業展開が主な目的です。実績や経営資源が豊富な販売店と手を組むことで、多角的な事業展開を効率良く進められます。シナジー効果を得られることもメリットの1つです。

株式譲渡や事業譲渡の他、資本提携といったスキームが選ばれることもあります。資本提携の場合は、双方の独立性が維持されるため経営権は移転しません。

【中古車販売業界】M&Aによる「譲渡(売り手)側」のメリット

中古車販売業界のM&Aによる「譲渡(売り手)側」のメリットは、主に3つあります。M&Aによってどのようなメリットが得られるのかチェックしておきましょう。

ここでは、中古車販売業界のM&Aにおける譲渡(売り手)側のメリットを詳しく解説します。

売却益(譲渡益)を得られる

会社を売却すると、経営者は売却益(譲渡益)を得ることができます。リタイア後の生活資金や新しい事業への資金など、売却益の使い道は自由です。事業譲渡であれば、売却益を借金の返済や経営に活用することもできます。

売却益には事業規模や交渉力も影響します。売却益の相場は、「純資産(時価)に営業利益の3~5年分を加えた額」または「純資産+(営業利益+退任する役員報酬)✕2年分」です。

後継者の不在問題と従業員の雇用問題をまとめて解決できる

M&Aにより、譲渡(売り手)側は会社が抱える経営課題を解決できます。

後継者がいなくても、M&Aで他社に会社を引き継いでしまえば廃業せずに会社を残すことが可能です。廃業を回避できれば従業員の雇用も守れます。

株式譲渡の場合は雇用契約や給与などの待遇面がそのまま引き継がれますが、事業譲渡の場合は新たに雇用契約を結ぶ必要があります。同じ条件で雇用が継続されるケースが一般的ですが、場合によっては条件に変更が生じることもあるでしょう。

譲受(買い手)側のほうが給与などの待遇面が良い場合は、M&Aによって従業員の待遇が改善されることもあります。

個人保証や債務から解放される

金融機関から融資を受けるにあたって、経営者が個人保証を行うケースが多く見られます。万が一返済ができなくなった場合、経営者は個人資産を返済に充てなければなりません。

しかし、会社を売却する場合は、経営者が背負っている個人保証や債務は譲受(買い手)側に引き継がれます。個人保証や債務が精神的な負担となっている経営者にとって、返済義務がなくなることは大きなメリットと言えるでしょう。

【中古車販売業界】M&Aによる「譲受(買い手)側」のメリット

中古車販売業界のM&Aは、譲受(買い手)側にもさまざまなメリットがあります。M&Aを検討している方は、自社にとってどのようなメリットがあるのかチェックしておきましょう。

ここからは、中古車販売業界のM&Aにおける譲受(買い手)側のメリットを3つ解説します。

事業・シェアの拡大が見込める

事業規模とシェアの拡大を効率的に進められることは、譲受(買い手)側にとって大きなメリットです。

事業規模とシェアの拡大を自社で一から行うとなれば、調査や実施に時間や手間、さらにコストがかかります。成果が出るまでには長い時間がかかる上に、必ず成功するとも限りません。

しかし、譲渡(売り手)側が築き上げた経営資源を自社に取り込むことができれば、リスクを最小限にして事業・シェアの拡大を目指せます。時間・手間・資金を他に使うこともできます。

新規事業のスムーズな参入が可能となる

中古車販売業界への新規参入を狙っている企業にとって、実績がある会社とのM&Aはメリットが豊富です。

新規事業の立ち上げには時間と手間がかかるだけでなく、多額の資金も必要となります。万が一新規事業が失敗すれば経営に大きなダメージを与えるおそれもあります。新規事業への参入で失敗する主な原因は、ノウハウが不足していることと顧客ニーズの適切な見極めができないことです。

すでに中古車販売業界で成功している会社を引き継ぐことができれば、さまざまなリスクを回避できるほか、新規事業にかける資金の削減にも繋がります。

ノウハウと人材をまとめて獲得できる

譲受(買い手)側が得られるメリットとして、ノウハウと人材をまとめて獲得できることが挙げられます。

中古車販売業界で成功するには、ノウハウと優れた人材が必要不可欠です。ノウハウがない状態で新規事業を立ち上げる場合、試行錯誤を繰り返したり外部の専門家の力を借りたりする必要があります。

一方、ノウハウがある会社を買収できればベースが出来上がっている状態からスタートできるため、経営の安定化を目指しやすくなります。

また、自動車整備士や営業職など、熟練技術やスキルが高い人材は即戦力です。人材不足の解消とサービスの品質向上にもつながります。

中古車販売業界における主なM&A事例3選

中古車販売業界のM&Aを成功させるには、M&Aを行った企業の事例を参考にするのも有効です。どのような目的やスキームでM&Aを実施したのか、チェックしてみましょう。

ここからは、中古車販売業界における主なM&A事例を3つ紹介します。

バリューホールディングス株式会社×株式会社米自動車

バリューホールディングス株式会社は、2023年1月に株式会社米自動車を完全子会社化しました。

譲渡(売り手)側 株式会社米自動車
譲受(買い手)側 バリューホールディングス株式会社
M&Aの目的
  • 収益機会の最大化
  • 高級自動車の整備技術の活用
M&Aのスキーム 株式譲渡(一部譲渡)

バリューホールディングス株式会社は、ブランド品や骨とう品などの買取・販売を行うリユース事業を展開しています。2021年には自動車の買取事業も開始しています。

株式会社米自動車は、自社工場を構える新車・中古車の販売に特化した会社です。高級外車の整備を行うノウハウと技術力が高く評価され、当M&Aが行われました。

株式会社グッドスピード×株式会社チャンピオン

株式会社グッドスピードは、2021年3月に株式会社チャンピオンを子会社化しました。

譲渡(売り手)側 株式会社チャンピオン
譲受(買い手)側 株式会社グッドスピード
M&Aの目的
  • シナジー効果の創出
  • 企業価値の向上
M&Aのスキーム 株式譲渡(全部譲渡)

株式会社グッドスピードは、中古車の買取・販売、新車の販売・整備・レンタカーなどさまざまな事業を展開しています。株式会社チャンピオンは、ハーレーダビッドソンおよびベスパの正規ディーラーです。

株式会社チャンピオンの顧客を取り込むことで、認知度と企業価値の向上を目指しています。

株式会社オートバックスセブン×高森自動車整備工業株式会社

株式会社オートバックスセブンは、2020年4月に高森自動車整備工業株式会社を子会社化しました。

譲渡(売り手)側 高森自動車整備工業株式会社
譲受(買い手)側 株式会社オートバックスセブン
M&Aの目的
  • 整備事業者とのネットワーク構築
  • 収益拡大
M&Aのスキーム 株式譲渡(全部譲渡)

株式会社オートバックスセブンは、全国展開する自動車用品総合専門店のフランチャイズ本部です。高森自動車整備工業株式会社は、三重県で車検・修理、リース業務や板金整備事業を行っています。

当M&Aにより、次世代技術に対応する整備ネットワークの構築と新規顧客を目指しています。

中古車販売業界のM&Aを成功させるためのポイント

中古車販売業界のM&Aを成功させるためのポイントは、以下の通りです。

●【譲渡(売り手)側のポイント】

  • 自社の強みを明確にする
  • シナジー効果が得られる企業を見つける
  • 従業員の待遇を確認しておく

M&Aによるメリットを高めるために、優位性が高い強みをしっかりとイメージしておくことが大切です。弱みを補い合うだけの企業ではなく、シナジー効果を見込める企業を選びましょう。

また、優秀な人材が流出しないように、あらかじめ従業員の待遇を設定しておくことも重要です。

●【譲受(買い手)側のポイント】

  • M&Aにかかる予算を明確にしておく
  • 相場価格を理解しておく
  • 相手企業の経営リスクをしっかり把握する

M&Aを実施するには、買収金額の他にM&Aアドバイザーの手数料や事業を運営していくための費用もかかります。中古車販売業界のM&Aの相場価格をチェックしておくことで、無理のない予算を立てやすくなります。

簿外債務や行政指導を受けた事実は、経営にマイナスな影響を及ぼすおそれがあるため注意が必要です。経営リスクの把握やスムーズなM&Aの実施には、専門知識を有するM&Aアドバイザーへの相談がおすすめです。実績やサポート力をチェックして、信頼できるアドバイザーに依頼しましょう。

まとめ

中古車は購入価格を抑えられるため、今後も需要拡大が続く可能性が高いと言えます。ただし、中古車販売業界では「購入者層の確保の難化」「人材不足の深刻化」「消費者ニーズの多様化」などが課題として挙げられています。

M&Aの実施は、経営課題を解決する方法の1つです。ノウハウや優秀な人材を獲得できるだけでなく、消費者のニーズに合ったサービス提供も可能になります。事業・シェアの拡大も見込めます。

M&Aを成功させるには、リサーチ力や交渉力が求められます。まずはM&Aアドバイザーに相談して、自社にとってベストなM&Aを目指しましょう。

監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長

澤田 英之(さわだ ひでゆき)

金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。

 
 
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