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業界別M&A
造園工事は個人の住宅から公共緑地まで多くの場所で行われており、環境保護の観点から注目度が高い業界です。一方で建設業が抱える課題は造園工事業界にも存在し、経営上の難しさも見られます。
造園工事業界に将来性を見出している、あるいは業界の課題に悩んでいる方の中には、M&Aを検討している方も多いでしょう。
今回は造園工事業界が抱える課題やM&A動向を紹介した上で、M&Aの売却側・買収側それぞれのメリットと主な事例を解説します。
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事業承継・譲渡売却は
造園工事業界とは、建設業の一業種である「造園工事」を行う業者で構成される業界です。造園工事の対象は個人の住宅から公園・街路樹といった公共緑地まで、幅広い範囲を含んでいます。
そもそも造園工事とは、緑地の造成や維持を行う工事のことです。具体的には下記のような工事内容があります。
植栽工事・地被工事・屋上等緑化工事・緑地育成工事は植物を中心的に取り扱う工事です。建設業の中でも、植物という生き物を扱う唯一の業種であることが造園工事業界の特色と言えます。
造園工事に携わる職種は、主に下記の3つが挙げられます。
●造園業者
造園業者は、庭園・公園・緑地といった空間全体の造園工事に携わる業者のことです。造園業者は一般的に規模が大きく、整地や植栽などによる苑地の築造から完成した緑地の維持、植生の復元や病害虫の防除まで幅広いサービスを提供します。
また、造園業者によってはエクステリア全体の空間デザインや、門扉・塀・アプローチといった外構工事も行っているケースがあります。
●植木屋
植木屋は、樹木の植栽や剪定などの手入れを行う業者です。植物の取り扱いを中心的に行う専門家であり、植物の適正な管理を行って庭園や公園の景観を美しく保つ役割があります。
景石や泉水、各種設備の設置も請け負う造園業者と比べると、植木屋の業務範囲は植物関係に限定されていることが特徴です。また、従業員は数名程度と小規模の業者が多く、事業規模も造園業者より小さい傾向があります。
●庭師
庭師は、庭や緑地の設計・管理などを行って「庭」となる景観を造り出す業者です。個人宅やオフィスビルの庭はもちろん、公園などの公共空間の庭造りも行います。
植物を主に扱う植木屋と比べると、庭造りに従事する庭師は業務範囲が広い業者です。造園業者により近い職種と言えるでしょう。
ただし、造園業者は複数の従業員を抱える組織を指すのに対し、庭師は一般的に個人で働きます。請け負う業務も、個人で行える範囲の小規模なものに留まることが特徴です。
上記のように造園業者・植木屋・庭師は主な業務内容や事業規模に違いがあるため、顧客は希望する作業内容に応じて適切な業者を選択することになります。
一般社団法人 建設物価調査会によると、2017年~2023年における造園工事の完成工事高は下記のように推移しています。
●2017年~2022年における造園工事の完成工事高の推移
| 完成工事高 | |
|---|---|
| 2017年 | 4,023億円 |
| 2018年 | 4,276億円 |
| 2019年 | 5,164億円 |
| 2020年 | 6,981億円 |
| 2021年 | 4,377億円 |
| 2022年 | 5,354億円 |
| 2023年 | 6,037億円 |
(出典:一般財団法人 建設物価調査会「緑化樹木の需給概況」/
https://www.kensetu-bukka.or.jp/article/15710/)
造園工事の完成工事高は1995年度には約1.1兆円であったものの、2017年度には4,023億円にまで落ち込みました。2017年度以降は順調な回復を見せ、2020年度には6,981億円と飛躍的な増加になっています。
しかし、2020年から拡大した新型コロナウイルス感染症の影響により、翌2021年度の完成工事高は大幅に下がっています。
2022年度は再び増加に転じているものの、近年は建設材料の高騰やそれによる新設住宅着工戸数の減少なども発生しています。複数の要因が影響したことにより、住宅分野における造園工事の需要は減少している状況です。
一方で、造園工事業界には以下のようなプラス要素もあり、将来的な市場規模の拡大も考えられます。
●海外市場からの注目度上昇
日本庭園は石・水・木など複数の要素を組み合わせた曲線的な造形が特徴で、日本文化に興味がある海外市場からの注目度が上昇しています。自然との調和による美を体験できる場所としてだけではなく、瞑想や禅思想につながるスピリチュアルな場所と捉えられていることも人気を集めている理由です。
日本庭園を作庭するには自然の風景を再現する見立てや、石組・借景といった独特の技法が必要です。日本庭園に関連した技術を有する造園工事業者は海外市場からの需要が期待できます。
●緑化事業による成長の可能性
公園・広場といった緑地を整備する緑化事業は、ヒートアイランドや地球温暖化への対策として積極的に行われています。屋上緑化・壁面緑化やゼロカーボンシティなどの取り組みも日本各地で進められていて、緑化事業についてのノウハウを有する造園工事業者は成長の可能性があります。

造園工事業界の今後の見通しには明るい要素がある一方で、建設業全体が抱える課題による経営への影響も懸念されています。造園工事業界に関わる方は、業界の課題についても把握しておきましょう。
以下では、造園工事業界が抱える主な課題を2つご紹介します。
建設業には、大手企業が元請けとなって下請けの中小事業者に仕事を委託する「多重下請け構造」があります。建設業に含まれる造園工事業界も例外ではなく、多重下請け構造が常態化している業界です。
多重下請け構造では元請けの大手企業が高い利益を上げる一方、下請けとなる中小事業者はあまり利益を出せません。低い利益率で経営し続けることで経営基盤が脆弱になり、市場の動向によっては経営継続ができず廃業を余儀なくされるリスクもあります。
中小規模の造園工事業者が経営を安定させるには、受注から施工までを自社で完結する仕組み作りが必要となるでしょう。
造園工事業界を含む建設業は肉体労働が多いというイメージが付きまとい、若手世代が入りづらいことによる人手不足が問題となっています。造園工事は現場で作業する仕事であるため労働力が欠かせず、人手不足になると受注した工事をスムーズに進められません。
また、経営者の高齢化による後継者不在問題も深刻となっています。中小事業者はワンマン経営であることが多く、経営手腕を持った後継者の育成が進んでいないことが後継者不在問題の一因です。
人手不足や後継者不在問題は事業構造や経営のやり方にも関わる課題であり、抜本的な対策をしなければ早急な解決が難しいと言えます。
造園工事業界が抱える課題の対処法としては、2社以上の企業が合併・買収を行うM&Aが有効です。M&Aを行えば事業領域の拡大や市場での競争力強化、人材・ノウハウの獲得ができるため、造園工事業界ではM&Aが活発化しています。
特に造園工事業界で多く見られるM&Aの方向性を2つ紹介します。
●大手企業や総合建設業者の傘下に加わるM&A
中小の造園工事業者では、大手企業や総合建設業者の傘下に加わるM&Aが頻繁に行われています。大手に買収されると経営基盤が強化され、後継者不在問題の解決や工事受注の安定化も図ることが可能です。
●事業拡大を目指す異業種とのM&A
異業種の企業が事業拡大を目指す過程で、造園工事業者を買収するケースも増えています。
特に土木工事業者や資材メーカーなどの隣接業種によるM&Aが多く、造園工事業者が保有するノウハウや営業基盤を獲得することが目的です。造園工事業者にとっても、従来より広範な領域で工事を受注できる利点があります。

M&Aで得られるメリットは、事業や会社を売却する譲渡(売り手)側と、買収する譲受(買い手)側とで違いがあります。造園工事業界のM&Aを進める際は、立場によって異なるメリットの違いを把握することが大切です。
以下では、造園工事業界のM&Aによる譲渡側のメリットを3つご紹介します。
M&Aの譲渡側は、事業や会社を売却する対価として売却益を得られます。造園工事業者の売却益はある程度の金額が期待でき、あらゆる用途に活用できるでしょう。
特に株式譲渡を選択した場合の売却益は経営者に入ります。経営者は売却益をリタイア後の生活資金にしたり、新規事業の資金源に活用することが可能です。
また中小企業の経営者は、金融機関から融資を受けるために個人保証を設定しているケースが少なくありません。M&Aの条件に債務の引き継ぎを含めれば、自社の負債や個人保証から解放されるメリットもあります。
売上低迷や後継者不在などの要因によって造園工事業者が廃業する際は、従業員を解雇しなければなりません。従業員の解雇時には退職金の支払いが発生し、解雇を通告することによる精神的な負担も伴います。
M&Aを行えば従業員は基本的に譲受側で雇用が継続されるため、従業員の雇用を継続させられる点がメリットです。事業規模が大きい総合建設業者や、事業拡大を目指す企業に買収してもらえば、従業員が現在よりも好待遇な職場で働けることも期待できます。
造園工事業界の隣接業種には外構工事・土木工事・建築工事などがあり、造園工事業者によっては造園工事以外にも多角的な事業展開をしているところもあります。事業の多角化は収益の柱を増やすメリットがあるものの、複数事業を展開することによるコスト増大や情報管理の煩雑さにつながるリスクもある経営戦略です。
M&Aのスキームとして事業譲渡を選択すれば、自社にとって不要な事業を売却できるため、事業の選択と集中によって事業ポートフォリオをスリム化できます。コア事業に経営資源を集中できるようになり、効率的な経営を実現できるでしょう。

造園工事業界のM&Aによる譲受側のメリットは、人材や受注の確保、市場シェアの拡大などです。また、異業種の場合は低コストでの新規参入も狙えます。
造園工事業界のM&Aを譲受側で進めたい方は、自社が期待するメリットを得られるかどうかをチェックしましょう。
造園工事には専門的な技術が必要であり、事業拡大や新規参入をするには専門技術を持つ人材の確保が必要です。M&Aの譲受側は譲渡側の資産を獲得できるため、優秀な人材を確保できるメリットがあります。
例えば、「造園施工管理技士」「造園技能士」といった資格の保有者は、造園工事に関する高度な技能を保有しています。他にも現場作業に使用する車両系の資格保有者も確保した方が良いでしょう。
造園工事業界は人手不足であるため若い人材も必要です。教育コストはかかるものの、自社への長期貢献が期待できます。
譲渡企業を買収して事業拡大を行うことで、造園工事の安定的な受注確保が可能となります。事業規模が大きい方が、より多くの種類の造園工事案件に対応しやすくなるためです。
特に官公庁の緑化事業や観光地の景観整備といった大型の案件は、ある程度の規模を有する造園工事業者でなければ受注が難しくなっています。M&Aで事業拡大をすることは、大型工事の受注に繋がるチャンスと言えるでしょう。
買収する譲渡企業が特定の地域に強みを持っている場合は、地域の営業基盤をそのまま引き継げるメリットもあります。
造園工事業界では環境保全や生態系に配慮した施工技術の需要が高まっています。該当の技術を有する企業を買収すれば自社にもノウハウを取り入れることができ、市場シェアの拡大を狙えるでしょう。
譲受側が異業種の場合は、既存事業と造園工事事業のシナジーによって顧客への提案力も強化できます。サービス提供を通じて顧客満足度を高め、競合他社との差別化を図ることも可能です。
異業種が造園工事事業を新しく興す際は、人材募集や建設機械・設備の購入、許認可の取得など多くのコストと工数負担が発生します。
しかし、M&Aによって造園工事業者を買収すれば譲渡側の人材・設備・ノウハウなどを継承できるため、低コストで造園工事事業への参入が可能となります。顧客情報や取引先との関係も一から作る必要がなくなり、利益を上げる目途を立てやすくなるでしょう。
新規事業への投資額を素早く回収することで、事業参入の成功率を高められるメリットもあります。

造園工事業界のM&Aを成功させるためには、M&A事例を参考にするのも有効です。M&A目的や、選択したスキームを参考にすることで、自社にとって最適な選択を考えやすくなります。
最後に、造園工事業界における主なM&A事例を3つ挙げて、それぞれの事例でどのようなM&Aが行われたかを解説します。
株式会社ナカノフドー建設は2023年3月、株式会社トライネットホールディングスの株式を取得して子会社化しました。
| 譲渡(売り手)側 | 株式会社トライネットホールディングス |
|---|---|
| 譲受(買い手)側 | 株式会社ナカノフドー建設 |
| M&Aの目的 |
|
| M&Aのスキーム | 株式譲渡 |
譲受側の株式会社ナカノフドー建設は、国内・海外の建設事業や不動産事業を取り扱うゼネコンです。
一方、譲渡側の株式会社トライネットホールディングスは、土木事業をはじめ総合建設業・不動産事業・リフォーム事業などを行うグループの持株会社となっています。
2社は本M&Aにより、建築事業や土木事業のノウハウを相互活用して事業拡大を目指し、シナジー効果の創出を見込んでいます。
積水ハウス株式会社は2020年6月、株式会社岐阜造園の第三者割当増資によって株式を取得しました。
| 譲渡(売り手)側 | 株式会社岐阜造園 |
|---|---|
| 譲受(買い手)側 | 積水ハウス株式会社 |
| M&Aの目的 |
|
| M&Aのスキーム | 第三者割当増資 |
譲受側の積水ハウス株式会社は、戸建住宅事業をはじめ、分譲地開発やリフォーム事業、国際事業など広範な領域で事業を展開する大手住宅メーカーです。
対して譲渡側の株式会社岐阜造園は、個人住宅の造園工事や造園緑化工事などを請け負う造園工事業者です。
株式会社岐阜造園と積水ハウス株式会社は長年の取引関係にあり、本M&Aによって資本提携を含めた取引関係の強化を目指しています。
前田工繊株式会社は2009年10月、株式会社サングリーンの全株式を取得して子会社化しました。
| 譲渡(売り手)側 | 株式会社サングリーン |
|---|---|
| 譲受(買い手)側 | 前田工繊株式会社 |
| M&Aの目的 |
|
| M&Aのスキーム | 株式譲渡 |
譲受側の前田工繊株式会社は、土木資材をはじめとした土木関連製品の開発・販売を行う建設資材メーカーです。
一方で譲渡側の株式会社サングリーンは、官公庁を主要な販売先として緑化工事や造園工事資材の販売などを行う造園工事業者です。
前田工繊株式会社は株式会社サングリーンを子会社化することにより、新規取引先の開拓や販売力強化につながるとしています。
造園工事業界には多重下請け構造や人手不足・後継者不在問題などの課題があり、M&Aが活発化しています。造園工事業界でM&Aによる課題解決や事業拡大を検討している方は、紹介したM&A動向や立場別のメリットを参考に、M&A戦略を組み立てると良いでしょう。
造園工事業界のM&Aに悩みや不安を抱えている方は株式会社レコフにご相談ください。株式会社レコフはM&Aの戦略立案や案件創出などを総合的に提供し、目的達成ができるM&Aの実現をサポートいたします。
監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長
澤田 英之(さわだ ひでゆき)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。
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