平日9:00〜18:00
業界別M&A
日本の農業は、食料供給を支える基幹産業として重要な役割を担ってきました。しかし近年は、担い手不足や高齢化、経営環境の変化などにより、従来の経営モデルだけでは持続が難しい局面を迎えています。個人経営や家族経営が多い点も、農業特有の課題と言えるでしょう。
こうした状況の中で注目されているのが、農業分野におけるM&Aです。事業承継や経営基盤の強化、新規参入や事業拡大といった目的から、農業M&Aは重要な選択肢の一つとなりつつあります。
今回は、農業M&Aの基本的な概要をはじめ、注目されている背景や主な手法、メリット、実際の事例までを分かりやすく解説します。
基本合意まで無料
事業承継・譲渡売却は
農業業界とは、農作物や畜産物の生産を通じて、人々の食料供給を支える産業の総称です。土地や施設を活用して作物を栽培したり、家畜を飼育したりする一次産業に位置付けられ、日本の食と地域経済を根底から支えています。
近年は、生産活動にとどまらず、加工・流通・販売、さらには観光や体験事業と組み合わせた多角的な経営も広がっており、農業の担う役割は年々広がりを見せています。
農業業界は、生産対象や事業形態によっていくつかの分野に分類されるのが一般的です。
●耕種農業
米や野菜、麦・大豆などの穀物を栽培する分野で、日本の農業の基盤を支えています。
●果樹・花き農業
果物や花を生産する分野で、品質の高さやブランド力が重視されるのが特徴です。
●畜産農業
牛・豚・鶏などを飼育して肉・乳製品・卵を生産する分野で、安定供給と規模拡大が課題とされています。
●観光農業
農園体験や収穫体験、直売所の運営などを通じて、農業に「観光」や「体験価値」を組み合わせた分野です。近年では農産物の付加価値向上や安定収益の確保のほか、地域活性化の手段としても注目されています。
このように農業業界は多様な分野で構成されており、それぞれ異なる経営課題や成長機会を抱えている点が特徴です。
農業M&Aとは、農業経営において農地や設備、従業員、取引先などの経営資源を、第三者へ引き継ぐ・取得する手法を指します。
そもそもM&Aとは、「Mergers(合併) & Acquisitions(買収)」の頭文字をとった略称であり、企業の合併や買収を通じて事業の承継や成長を図る取り組みのことです。
近年の農業M&Aは農業法人同士の統合だけでなく、食品メーカーや商社、IT企業といった異業種が新規参入や事業拡大を目的として活用するケースも増えています。

近年の農業業界では、事業承継や経営基盤の強化を目的として、M&Aを活用する動きが注目を浴びています。
農業を取り巻く環境は、担い手不足や経営の不安定化といった課題が顕在化する一方で、制度改正や市場ニーズの変化を背景に、新たな参入や事業拡大の機会も広がっています。
ここからは、農業M&Aが注目されている背景について詳しく紹介します。
農林水産省が公表する「農業労働力に関する統計」によると、日本の農業従事者数は年々減少しており、2015年の175.7万人から2020年には136.3万人、2025年の概数値では102.1万人まで減少すると見込まれています。
また、一般的な企業であれば定年となる「65歳以上」の農業従事者が占める割合も高く、平均年齢は10年以上にわたって67歳前後で推移しています。
| 年度 | 2015年 | 2020年 | 2025年(概数値) |
|---|---|---|---|
| 農業従事者 | 175.7万人 | 136.3万人 | 102.1万人 |
| うち65歳以上の農業従事者 | 114.0万人 | 94.9万人 | 71.0万人 |
| 平均年齢 | 67.1歳 | 67.8歳 | 67.6歳 |
(出典:農林水産省「農業労働力に関する統計」/
https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html)
農業従事者の高齢化と減少が進む中、家族内で後継者を確保できず、事業継続が困難になる農家や農業法人が増加しています。農地や設備、長年築いてきた取引関係を維持したまま事業を引き継ぐことが難しく、やむを得ず廃業を選択するケースも少なくありません。
しかし、M&Aを活用すれば農地や設備、従業員、取引先といった経営資源をまとめて承継でき、事業の存続と地域農業の維持につながります。こうした背景から、売り手を中心に農業M&Aのニーズが高まっています。
農業M&Aが注目されるもう1つの理由として、新規参入や事業拡大を目的とした買い手のニーズの高まりが挙げられます。
2009年および2016年の農地法改正では、農地リース方式による企業の農業参入の自由化や農地所有要件の緩和が行われ、食品メーカーや商社、異業種企業などが農業分野へ参入しやすい環境が整いました。
一方で、農業は農地の確保や地域との関係構築、設備投資、人材確保、販路開拓など、参入時のハードルが高い産業でもあります。十分なノウハウや準備がないまま新規参入した結果、採算が合わず短期間で撤退するケースも少なからず見られました。
早期の撤退リスクを回避する手段として、既存の農業法人や事業をM&Aによって取得し、経営資源を一括で引き継ぐ選択が広がっています。
M&Aであれば、すでに確立された事業基盤を活用できるため、参入後の不確実性を抑えながら成長を目指すことが可能です。売り手の「事業承継ニーズ」と買い手の「新規参入・規模拡大ニーズ」が合致することから、農業M&Aは現実的かつ有効な選択肢として注目を浴びています。

農業業界のM&Aでは、農地法や法人形態の影響により、一般的なM&Aと比べて選択できる手法に違いが生じます。特に重要なのが、農地を所有する「農地所有適格法人」が関与するかどうかという点です。
農地は自由に売買できる資産ではないため、売り手の法人形態や農地の保有状況によって、適切なM&Aスキームを選択する必要があります。
ここからは、農業M&Aで用いられる代表的な手法をケース別に紹介します。
事業譲渡とは、会社全体ではなく、特定の事業や資産・契約などを選んで譲渡するM&A手法です。農業法人は比較的小規模なケースが多く、農地法との関係もあることから、事業譲渡が選ばれるケースは少なくありません。
特に、売り手が農地所有適格法人である場合や、農地・設備・特定事業のみを引き継ぎたいケースでは、買い手にとって現実的な選択肢となります。農地所有適格法人とは、一定の要件を満たし、農地を所有・利用できる法人を指します。
事業譲渡では、引き継ぐ範囲を柔軟に選べるため、不要な資産や負債を避けやすい点がメリットです。一方で、契約や許認可の個別移転が必要となるため、株式譲渡に比べて手続きや事務負担が大きくなりやすいことも覚えておきましょう。
株式譲渡は、売り手企業の株式を取得することで、会社そのものを引き継ぐM&A手法です。売り手が農地を所有していない農業法人である場合、買い手は農地法上の制約をほとんど受けず、一般企業と同様に株式譲渡を選択できるケースが多くなります。
株式譲渡では、事業・契約・従業員を一体で引き継ぐことができるため、事業の連続性を確保しやすい点が特徴です。
ただし、売り手が農地所有適格法人である場合には、議決権割合など農地法上の制約があるため、買い手による株式取得が制限されたり、慎重なスキーム設計が求められたりすることも念頭に置いておきましょう。

農業業界のM&Aは、売り手・買い手の双方にメリットがある手法として注目されています。中でも売り手側にとっては、事業の将来に不安を抱える場面でM&Aが有効な選択肢となり得るでしょう。
ここからは、農業M&Aにおける売り手の主なメリットを3つ紹介します。
農業M&Aを活用することで、後継者不在や経営者の高齢化といった理由による廃業を回避し、事業を存続させることが可能です。農地や設備、ノウハウを第三者に引き継ぐことで、これまで築いてきた農業経営を次世代へつなげられます。
また、M&Aによって個人保証や担保から解放されるケースもあり、経営者の精神的・経済的負担の軽減にもつながります。譲渡後も役員として経営に関わり続ける選択肢もあり、事業の継続だけでなく、さらなる成長が期待できる点も魅力と言えるでしょう。
農業M&Aでは、農地や農業機械、施設といった資産だけでなく、従業員や取引先との関係も含めて一体で引き継げる点が大きな特徴です。経営資源をまとめて承継してもらうことで、取引の継続性が保たれやすくなるほか、現場の混乱も最小限に抑えられます。
従業員にとっても、経営基盤の安定した企業のもとで働き続けられるだけでなく、新たなノウハウや設備を通じて成長機会が広がる可能性があるなど、多くのメリットがあるでしょう。
M&Aによる譲渡では、長年の経営によって築いてきた事業価値を金銭的に評価してもらえる点もメリットです。譲渡によって得た資金は、引退後の生活資金として活用できるほか、新たな事業への再投資や負債の整理などにも充てられます。
事業を存続させながら、経営者個人としても経済的なリターンを得られる点は、農業M&Aならではの大きな利点と言えるでしょう。

農業業界におけるM&Aは、売り手だけでなく買い手にとっても多くのメリットがあります。新規参入や事業拡大を検討する企業にとって、M&Aは効率的かつ現実的な選択肢と言えるでしょう。
次に、農業M&Aにおける買い手の主なメリットを3つ紹介します。
買い手にとっての農業M&Aの大きなメリットは、農地や農業設備、栽培・飼育に関するノウハウなどの経営資源をまとめて引き継ぐことができるという点です。
農業は新規参入のハードルが高く、農地の確保や設備投資、人材育成に時間がかかりますが、M&Aを活用することで、既存の経営基盤をそのまま取得できます。そのため、事業立ち上げにかかる時間を大幅に短縮でき、早期に安定した経営を目指せます。
既存の農業経営を引き継ぐことで、すでに確立された生産体制や販売ルートを活用できます。そのため、ゼロから事業を構築する場合に比べて、無駄なコストや試行錯誤を抑えることが可能です。
また、複数の農業法人を統合することで、資材調達や物流、管理業務を一本化でき、経営の効率化やコスト削減にも繋がります。
農業M&Aでは、自社の強みと譲受先の経営資源を組み合わせることで、シナジー効果を期待できます。
例えば、食品メーカーや商社であれば、原材料の安定確保や付加価値商品の開発につながるほか、IT企業であればスマート農業の導入による生産性向上も見込めます。
このように、農業M&Aは単なる事業拡大にとどまらず、新たな価値創出が可能となる点も、買い手にとっての大きなメリットと言えるでしょう。

農業業界のM&Aを成功させるためには、実際の事例を参考にすることが有効です。どのような企業が、どのような目的でM&Aを実施しているのかを知ることで、自社に合ったM&Aの形を具体的にイメージしやすくなるでしょう。
ここからは、農業業界における代表的なM&A事例を3つ紹介します。
ベルグアース株式会社は、2025年9月18日開催の取締役会において、ピーエスピー株式会社の株式取得を決議しました。本件により、ピーエスピー株式会社はベルグアース株式会社のグループに加わる形となりました。
| 譲渡(売り手)側 | ピーエスピー株式会社 |
|---|---|
| 譲受(買い手)側 | ベルグアース株式会社 |
| M&Aの目的 |
|
| M&Aのスキーム | 株式譲渡 |
ベルグアース株式会社は、野菜苗の生産・販売を中心に、農業資材の取り扱いなども行う企業です。
ピーエスピー株式会社は、独自規格の野菜苗を含む苗の育成・販売を手がけています。
今回のM&Aにより、ベルグアース株式会社は苗事業における競争力を高め、より幅広い顧客ニーズに対応できる体制の構築を目指しています。
2021年10月、大和フード&アグリ株式会社は、株式会社スマートアグリカルチャー磐田に資本参加し、同社の経営に参画しました。
| 譲渡(売り手)側 | 株式会社スマートアグリカルチャー磐田 |
|---|---|
| 譲受(買い手)側 | 大和フード&アグリ株式会社 |
| M&Aの目的 |
|
| M&Aのスキーム | 資本参加および経営参画 |
大和フード&アグリ株式会社は、株式会社大和証券グループ本社の100%子会社であり、農業分野を含む関連事業への投資や運営を行っています。
スマートアグリカルチャー磐田は、農業生産や加工事業を展開する企業です。
今回のM&Aにより、大和フード&アグリ株式会社は設備やノウハウを活かしながら生産規模を拡大し、新たな収益源の確立を狙っています。
株式会社西原商会は、2020年1月に有限会社松本農園の全株式を取得し、同社を子会社化しました。
| 譲渡(売り手)側 | 有限会社松本農園 |
|---|---|
| 譲受(買い手)側 | 株式会社西原商会 |
| M&Aの目的 |
|
| M&Aのスキーム | 株式譲渡 |
株式会社西原商会は、業務用食品を扱う総合食品卸企業です。
松本農園は熊本県益城町で野菜や米の生産・販売を行う農地所有適格法人です。
今回のM&Aにより、西原商会は自社グループ内での調達力を高めるとともに、農業分野への本格的な事業展開を進めています。

農業M&Aを成功させるためには、譲渡(売り手)側・譲受(買い手)側それぞれの立場でおさえるべきポイントを理解しておくことが重要です。
【譲渡(売り手)側の成功ポイント】
売り手ができる限り有利な条件で譲渡するためには、業績や経営状態が安定しているタイミングを見極めることが欠かせません。赤字が続いてから検討を始めるのではなく、余力のある段階で動くことで選択肢も広がります。
また、後継者問題や将来の経営方針を見据え、早い段階から準備を進めておくことで、交渉や引き継ぎもスムーズに進めやすくなります。
【譲受(買い手)側の成功ポイント】
買収後のトラブルを防ぐためにも、農地の状態や農業設備の老朽化、運営体制などを丁寧に確認することが最重要です。書類上の情報だけで判断せず、現地を複数回訪れ、可能であれば一年を通して生産状況や管理体制をチェックすると良いでしょう。
なお、売り手・買い手双方にとってM&Aの成功率をさらに高めたい場合は、農業分野に精通した実績豊富なM&Aアドバイザーへ相談することが、最も確実な選択肢と言えるでしょう。
農業業界では、後継者不足や経営環境の変化を背景に、M&Aを活用した事業承継や成長戦略が注目されています。売り手にとっては事業存続や雇用維持、創業者利益の確保につながり、買い手にとっては農地や設備、ノウハウを一括で取得できる点が大きな魅力です。
農業M&Aを成功させるためには、立場ごとのポイントをおさえた準備と判断が欠かせません。より確実に進めたい場合は、M&Aアドバイザーへの相談も有効です。
1987年創業の老舗M&A会社として業界トップクラスの成約実績を有する「株式会社レコフ」は、幅広い業界・分野に精通したアドバイザーが着手金無料でM&Aに関する支援を行っています。農業M&Aを検討している方は、ぜひ一度ご相談ください。
監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長
澤田 英之(さわだ ひでゆき)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。
基本合意まで無料
事業承継・譲渡売却はM&Aのことなら、
お気軽にご相談ください。
お電話で
お問い合わせ
営業時間 / 平日9:00〜18:00
M&Aのことなら、
お気軽にご相談ください。
お電話で
お問い合わせ
営業時間 / 平日9:00〜18:00